『アウトレイジ』(2010)

・見終わって一呼吸して、「で、それで、なんなの?」と思った瞬間にすべてが霧散して蒸発して薄れて消えてしまう映画・・・・・・その内容、話、そういう作品。

暴力団わらしべ長者物語か?(悪い意味で)。

・兄貴だ、親分だ、師弟だ、契だ・・・言っといて、こっちで裏切り、こっちで騙して利を自分のものにしたいという我欲で人殺しをする物語。

・キャスティングは巧い。カメラも巧い。編集も巧い。つまらなくはないです・・・だけど!それだけ。なにも残らない、何も思わない。感動も感激も感心も、無い。

・たけし映画は嫌い!とここの日記では過去に書いてきたが、この「アウトレイジ」に至っては、嫌いと言う前にどうでもいいという感じだ。

・この映画は何を目的に作られたんだろう、なにを目的として作られたんだろう。人間の悪の業の深さ? いや、そんなドロドロしたところまで手は伸びていない。この映画の中の悪はおちゃらけでお笑い含みで描かれている。本当の人間の悪性だとか動物的な残虐さというところまで手は伸ばしていないし、伸ばそうとも描こうともしていない。

・却って昔の作品の方が、人間的な悪や残虐性、人間の闇の部分に手を伸ばしそれを描こうとしていた。だが、この「アウトレイジ」ではそういった部分は感じられない、そういったことをやっている振りをしつつ、実のところ描くのが難しく、描けばやっかいになるそういった部分を避けている。そういう部分を描かないということは、良い悪い、好き嫌いは別にして、たけし映画の、たけし監督らしさというのが無くなっているということだ。(そんなもん無くてもいいんだけど)

・そして、この映画は映画としての娯楽、エンターテイメントの方に大きく舵を切ってそっち志向で作られている。ウケ狙い、大衆迎合的に舵を切っているとも言える。ただしだ、そのウケ狙い、娯楽志向のネタが最悪なのだ。

・いうなればこの「アウトレイジ」は”人殺しエンターテイメント”と言えるだろう。次から次へと騙して、裏切って人を殺すのをエンタメ化しているのだ、娯楽作品にしようと使っている道具が”人殺し”なのだ。

・だから、相変わらずをして”下の下”なのだ。

・その上さらに、映画に中身といえるようなものが全く無い。はい、こいつを殺して、こいつを騙して、またそいつを殺して、うははと思ったら殺されて、それでオシマイ。人殺しを描いてるだけの物語。

・だから、「で、それで?」と思った瞬間に全部消えてしまう。そういう映画。