『南極料理人』

・「料理の映画を作ればそこそこのヒットは約束されている」そういう話も最近ではあまり当たらない。それでも料理ものならなんとなく作品に対して安心感というか「まあ観てもいいか?」という気持ちがわくのだろう。だから安杯な題材ということになる。

・南極と料理人という題は実に興味をそそるものだ。天皇の料理番。将軍の料理人・・・似たような題は他にもあるが南極と料理人というのはとても珍しく、面白そうだと思わせる。

・しかし、中味は面白くなかった。何よりも料理をどまんなかに据えた作品であるのに、料理が全然、まったく美味そうではない。やたらと量はあるようなのだが、なにか作業場の飯というかボリュームだけの料理というかんじ、まるで飯場の大盛り定食のようなものであり、ごくりと唾を飲み込むような美味しそうな雰囲気がまるで、これっぽっちも出ていないのだ。

・実際には南極観測隊の基地なのだから過酷な労働の現場であり、そこでの食事も飯場の飯のごとくエネルギーを補充するためという目的のほうが強いだろう。一年に及ぶ閉鎖された場所での生活だからあれこれ目新しい、日替わりの料理でないと飽きるというのはあるだろうが、高級なフランス料理店やしゃれたイタリア料理店の料理というものではあるまい。かといって田舎の郷土料理というわけでもないし。

・よって出てくる料理はなんとなく豪華さを演出したものもあるが、やはり量の料理だ。これは美味そうだというものではない。そのうえ作られた料理よりもラーメンのほうが恋しいというのだからやはり美味い料理、食事の映画ではないわけだ。ということで題に抱いていた期待は簡単に裏切られる。

・後は、人間関係やら家族の絆なんてものも少し描いているが、付け足しといった程度。

・題材の面白さに目を付けて映画化を企画し、料理モノなら集客も望めると考えていたのだろうが、料理モノに振りながら料理が美味そうでないのだからどうにもならない。おざなりで深みをだそうと家族の絆なんてものを付け足しても話も味も深まるわけではなし。

・ギャグもほとんど笑えない・・・

・ということで、これも思惑や企みがちぐはぐになって一つの作品の中でまとまらずバラバラに素材だけを寄せ集めてとにかく形にしたような失敗作なのだ。

・最後にハンバーガーをがぶっと口にして「うまい」と一言いうシーンまで出てくると、ああやっぱり南極の料理は不味そうだったもんな、ハンバーガーのほうが美味そうだよと悪い意味で納得してしまうのだからどうにもならない。

このシーンは自虐か?