『リップヴァンウィンクルの花嫁』

脚本を元にして映画を撮るときに監督の頭の中には、ある程度「この映画はこういう観客に観せたい、こういう客層に観てもらいたい、こういうタイプのこういう人に訴えかけたい」という観客設定というものが少なからず頭のなかにあるだろう。

そのことを考えれば、この映画は明らかに女性向けであろうな。そう、映画を観終えて真っ先に頭に思い浮かんだのは「これって極めて女性向けの映画だな、いやもう極めてというよりも、もう限りなく極めつけに女性という一種類の人間、生物のことを柔らかくしかし綿密に描いた映画だろうな」と思ったのだ。

カメラワークやアングル、画面のトーン、演出、その全てにおいて実に岩井俊二らしい、岩井俊二的な映画の上手さ、技工の巧みさはう〜んと観ていて唸るほどのものだ。まるで別世界に連れて行かれたようなふんわりとした柔らかい空間に取り囲まれるような感覚に包まれるのも、これまた岩井俊二の映像の技術であり魔法であり、それがよどみなく繋がって出来上がったこの「リップヴァンウィンクルの花嫁」という作品は実に作りが巧いし、映像作品としての緻密さ、完成度は極めて上質で極めて高いといえるだろう。