『羅生門 デジタル完全版』

京マチ子・・・美しい、そしてその迫真の演技。
汗の具合、その光り方、顔に当たる光線・・・白黒のなかでのおそろしいまでの空気感、温度感、白黒のマイナス面がまるで感じられない。白黒でありながらも、まったく古臭さを感じさせない斬新で新しい映像。

映像美 白黒の美しさ、陰影。影が一人の役者になって映像のなかで絵を動かし、心情を映し出している。役者と並ぶくらいに影に人間の意識、心を感じる。
それはあたかも監督黒澤明がこの映画をじっと見つめ、監視しているかのようでもある。

日本的であるのに、日本的などろどろさやぐだぐださは感じない。これはヨーロッパ的映像。だからカンヌでグランプリを取ったのではなかろうか。

初めて観たのは10年以上前だが、その時はなんだかよくわからず「なんだこのわけのわからぬ映画は」と思っていた。撮影当時の助監督や映画会社の関係者もこの映画がさっぱり理解できないと黒澤に言ったというがそれと同じ気持ちだった。

今改めてみて、その思いが一変した。

人間はエゴに包まれ、自分も他人をもごまかしてまで生きていこうとするどうしょうもない生き物だ、だけどあきらめてはいけない。希望をもって生きていかなければ行けない・・・そういうメッセージを込めた映画だったのか。

誰もかれも手前勝手だ、自分のことばかり考えている。それは半世紀以上前のこの映画から今のこんな日本にまで吐きかけられている言葉なんだろう。半世紀以上前よりももっと酷い日本の今に。