『裸の島』(1960)

●監督:新藤兼人 撮影:黒田清

●ノイズの非常に少ない美しい白黒映像。しっかりとした手抜きのないデジタル補修が施されている。

●瀬戸内海の海と小島の風景なのだけれど、これは地中海イタリアとか、ギリシャ辺りの海ではないかと思わせるような美しさだ。これはグラン・ブルーの冒頭に出てきたモノクロのギリシャの海に似ているせいだろう。白黒でありながらもギラギラとした眩しさと暑さを感じさせる映像、日本でありながら空気の湿っぽさをまるで感じさせない。からっと乾いた風、空気感。それが画面にしっかりと映し出されている。この光、暑さ、乾いた空気感が地中海の海を彷彿させる。瀬戸内海も地中海と同じで島と大地に囲まれた海だが、今瀬戸内海をカラーで撮ってこんな乾いた空気が映像に写し取れるだろうか? 半世紀も前のフィルム映像なのにこの映像の空気感に非常に驚く。これが監督とカメラマンが見て、感じた映像をモノクロ時代の技術を最大限に使って撮影したものであるならば驚くばかり。白と黒だけでこれだけの映像を撮影したとは、驚愕。カラーよりもその表現の奥深さは格段に上質。ひょっとしたらデジタル補修の段階でこの空気感を出す為にかなりの努力と手が加えられているのかもしれないが、それにしても元となるフィルムが素材として一級品であり、フィルムに収められた元の映像がこの空気感を持っていなければいかにデジタル補修をしたとしても、ここまでの美しさと空気感を再生させられるものではない。

●光の捕まえ方、光の当て方が素晴らしい。全体としては少しオーバー気味の露出にも感じるが細部の陰影、映像の深みが飛んでいるわけではない。夏の照りつける暑さ、その光の中で輝く海、人物の肌に浮かぶ汗。日笠から漏れる光と影。白黒でこれだけ夏の暑さを感じさせる映画もない。それもわざとらしくない本当に自然の暑さ感だ。

●モノクロ撮影の技術という点では黒澤明の『羅生門』などが取り上げられることが多いが、この『裸の島』は撮影技術の模範としてもっと語られていい作品なのではないだろうか。正直、今回初見で驚いた。

●物語は平凡で平坦であり、島で畑を耕し作物を植え、船で海を渡って水を運び作物を育てる夫婦とその子供の姿をさしたる演出もなく、淡々と映し出している。悪くはないし、問題点もないが、物語として特筆すべき所はないといっていい。いや、だから却って映像の美しさが引き立ったのかもしれないが、この作品は話を追うというよりも、映像の美しさに目と心を奪われていればそれでいいのだ。

乙羽信子殿山泰司の夫婦だが、ちょっと乙羽信子が美人過ぎるか?
殿山泰司は昔も今もあまり変わらないなという感じ。乙羽信子はテレビドラマなどで、年齢が高いおばさんの役でしか見たことがなかったせいか、若い頃の美しさに少々驚く。

●白黒映画の映像、撮影技術の高さという点で、これは最上位に並べ、もっともっと語られるべき作品。