『ドラゴンへの道』(1972)

●出だしからしばらくのギャグ、コメディー調の作りはまったく面白くない、笑えない、ブルース・リーにコメディーはまったく似合わない。おじおじした演技のブルース・リーを可愛いだ、キュートだというのもあるかもしれないが、それはファンの気持ち。ブルース・リーの一面としては面白いが、いずれにせよイマイチであり、詰まらない。

●画面に面白み、ブルース・リーの魅力が出てくるのはやはり当然だが、アクション・シーンが始まってから。

●武闘シーンは流石の一言。息を止めて見入り、終われば大きく息を吐く。チャック・ノリスとの戦いはやはり名シーン。ただし、チャック・ノリスがそれほどというか全然悪人に見えないのが残念な点。リーと闘っていると、太めでふっくら顔のチャック・ノリスのより、ブルース・リーの方が悪人に見えてくる。闘う相手はやはりもっと極悪人面しているほうがいい。

●ローマでの撮影とうことだが画面にローマの空気が漂っていない。擦れて紅みを帯びた画質のせいでもあるのだが、ほとんど香港で撮影しているような映像。要するに映像がその場所の空気を伝えるのではなく、撮影しているカメラマン、監督、スタッフの心がその場所を伝える、映像に映し出されるという典型。外国人が日本を撮ると、なぜか中国や香港と変わらぬ雰囲気になってしまうというのと同じ。ローマで撮影していても、この作品はまるで香港。スタッフの心はローマではなく、香港のままということ。(撮影:西本正=賀蘭山)

●どんでん返しは相変わらずのアジア的ドロドロ〜。こういう愚俗な裏切り、騙しは何度観ても気持ちが良くない。もうこれはアジア映画の定番、定型なのだからどうしょうもない。労働者に未来は無いか・・・結局そういう搾取された側の恨み、卑屈、復讐といったものが生活の隅々に染み込んでいるのだから、これを無しに話は作れないということなのかもしれない。


○日本公開が1975年でブルース・リー主演映画では一番最後だったから”最後のブルース・リー”という副題が付いているらしいが、もう35年も経っているのだから、当時の状況でくっつけられたこんな副題を未だに使う必要などないだろう。