『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』

●2008年に劇場で観たときはかなりの衝撃を受けた。いったいどうしてこんな事が起きたのか?どうしてこんな愚かなことを革命だなんて言って正当化していたのかとむかついた。でも映画作品として心を揺さぶられた事は確かだった。連合赤軍を英雄視したり、賛美する声には反対だが、あの当時、国すらを変えて理想の社会を求めようとしたその意志と情熱の滾りだけは、羨ましく、眩しくもある。但しそれが成熟していない稚拙な思考によって自分に都合よく歪曲し、汚れ、私欲に利用されていったことはおぞましき人間の愚かさ、哀しさ、愚かさだ。
◎2008/05/14日記
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』革命が必要なのは今の日本
http://d.hatena.ne.jp/LACROIX/20080514

●あれから3年、今年の2月5日に永田洋子が東京拘置所の獄中で脳腫瘍で死亡というニュースが流れた。1972年に27歳で逮捕されて65歳に2011年までの約40年間を獄中で生きた一人の狂った女の人生とはどんなものだったのだろう? そう思いもう一度この映画を観てみようと思っていた。そして3月11日、あの震災が起こった。映画を観るよりも激しい映像がTVやネットに溢れた。いつの間にか、この映画をもう一度観ようという気持も忘れてしまっていた。

●5月29日日本赤軍・丸岡修受刑者死去(60)というニュースが流れた。
http://ameblo.jp/shino119/entry-10916595179.htmlこの事件に関わる人物も高齢化し次々に亡くなって行く。震災から3ヶ月近く経った今、思い出したかのようにこの映画を観た。

●直接同じ時間でこの事件を知らない者にとって、この映画は”連合赤軍”や”あさま山荘事件”というものを学ぶには最も分かりやすい映像資料といっていいだろう。とかく入り組んだ当時の活動家グループのことなども映像を観ていればなんとはなしに理解もできる。

●だがなによりも重要なのは、なぜ人間が仲間とされる人間を十数人もリンチ殺人するに至ったか。なぜそんな残虐で愚かな行為を人間がしたのか、その一端はこの映画で垣間見る事が出来るということだ。

永田洋子に突きつけられた判決文には「自己顕示欲が旺盛で、感情的、攻撃的な性格とともに 強い猜疑心、嫉妬心を有し、これに女性特有の執拗さ、底意地の悪さ、冷酷な加虐趣味 が加わり、その資質に幾多の問題を蔵していた」といった言葉が並んでいるという。本人はもちろん否定するだろうが、この映画を見ていると描かれている永田洋子はまさに言葉通りの女だ。27歳という若さで12名の仲間を惨殺し死ぬまで獄中で暮らした一人の女。その人生はどれだけ暗く、汚れ、希望の光の無い日々だったのだろう。生きている事は執念だけだったのではないだろうか。

●しかし、たかが20人程度の人間が世界革命だ、革命戦士になるのだ、武装闘争だ、革命的精神だと叫び、闘争で世の中を変えるんだと信じ、行動している様子は不気味であるが滑稽でもある。こんなことで世の中なんて変えられるはずが無いだろうと馬鹿らしく思える。それでもこの時代、自分が世の中を変える、革命を起こせると盲信させるなにかがこの時代にはあったのだろう。

●高校生や看護学校の女性、専門学校の女性までもが自分も革命を起こす力になりたい、その仲間に入りたいと連合赤軍に自ら加入してきたということに一番驚かされる。あの時代の若者はそれほどまでに社会や政治、国家、体制に不満、憤りをもち、それを壊して変換をしようと思っていたのだろうか。その意識、思い、情熱にはなにか今の時代に無いひた向きな熱さ、眩しさを感じる。だが、彼らを英雄視したり称賛する気にはなれない。

●今の自分には分からない、感じられない、無い、何か特別な空気があの時代には流れていたのだろう。中国の文化大革命に賛同し、沢山の知識人を殺し、毛沢東に盲従していった中国の若者も本当にそれが正しいことだと判断できていたとは思えない。判断する能力の無い集団に催眠術が掛けられ国全体が間違ったことを肯定し、誰もがその潮流に乗ってしまった、乗るしかなかった。そういうことだろう。そしてたかだか20数人という人数だが、連合赤軍に参加した若者にも同じように判断する能力のない人間が、強く見える流れに乗る事で形のない自分に形を与えようとした、そんな間違いを犯してしまったのだろう。

●今よりも圧倒的に情報の無かった時代、マルクスを読み、新聞やラジオから与えられる情報のみを判断材料とし、革命を起こそうなどと言って突き進んだ若者に、哀しさや憐れな愚かさを強烈に感じている。何かを求めて突き進む情熱、その熱さは尊く素晴らしいものだ。だが、それが間違った情念、私欲に縛りつけられて間違った方向に進んだとき、それは愚かで、醜く、蔑むべきものに堕落してしまうのだ。それが連合赤軍だったのだ。

●「今さら、落とし前なんか、つけられるのか。勇気が無かっただけなんだ」こんな言葉で全てを総括出来るはずなどない。勇気がなくて14人もの仲間の命を奪ったなんて何をふざけた甘ったれた事を言ってるんだ。「俺たちは弱くて、卑怯で愚かだったんだ」そう言うべきだろう。それを認める勇気がなかった。そういうことなのだ。

連合赤軍事件も、山を下りたナンバー1と2の永田洋子森恒夫が警察に捕まり逮捕されるという落ちは余りに愚かで情けない。

●ラストのジャンボ機爆破映像は丸岡が関わった1973年ドバイ事件リビアベンガジ空港の日航ジャンボ機爆破の映像だろうか?

●結局この事件の本質は、人間の弱さと愚かさということに帰着する。世界革命だ、共産主義革命だと題目だけを掲げた”革命ごっこ”をしていたいい歳の大人が、そのその”ごっこ”の果てに仲間を惨殺し、”ごっこ”をあたかも現実闘争のように自ら思い込ませ自壊していったのだ。殺された人間は、”ごっこ”遊びをする愚かで稚拙で思考の未熟な大人によってママゴト遊びの最中に針で刺される虫のごとく殺されて行ったのだ。


◎映画公開時に販売されていた厚いパンフともいうべき本に、自分の考えと重なり同意できる文章が掲載されていた。抜粋転記する。
《底知れぬ悲哀とゴッコ遊び》橋本克彦
連合赤軍を英語に直訳すればなんだか総兵力何十万といった感じがでてくる。実体はこの映画であきらかなようにまったくそんなものではなかった。
・自分たちの集団に「連合赤軍」などと空想的な名前を付けた瞬間に、観念の、あるいは言語それ自体の呪縛がはじまった。その名前が彼らを呪縛していたのである。
・革命をやろうとして、赤軍ごっこをやっているうちに、武力革命戦略の嘘、いいかえれば全く現実的な根拠のない妄想が、集団を呪縛し、実は内心で感じている嘘、自信のなさ、現実性のなさに、彼らはさいなまれ続ける。
・その嘘を埋めようとして仲間の精神を攻撃しては死に追いやる、という連鎖的な心理劇が生まれた。
・言葉でかざりあげただけの自分たちの武力革命戦略の嘘っぽさ、それを口にはしないが、実はひしひしと感じている嘘の恐怖が、この集団の行った無残、悲惨の正体であった。
・このような人々に一片の同情も感じないけれども、そのような連鎖的心理状態のなかで殺された者の無念については言葉もなく暗澹とするだけである。
どう追いかけたとしても答えはひとつ、彼らの浅はかさが結論となるだろう。
・無限の、底知れぬ悲哀とは、彼らが自分たちの行為を正しいと思っているからである。
・よかれと思ってはじめながら最悪の行動をとることをしばしば行ってきた人間。
・彼らを呪縛していたもうひとつのイメージは、ロシアや中国で行われた革命戦争であろうか。歴史も、民族性も、言語も、地理的条件も、時代も、状況も、要するになにもかも違う天地で革命を真似ようなどとするなどは愚の骨頂である。
・60年代から70年代初頭の政治活動家。彼らに共通していたのは何であれ他人を「指導」しようとする態度、傲慢さだった。

◎この文を読んでいると、まさに同じことが新興宗教集団で行われているではないかと気がつく。連合赤軍という集団はまさに新興カルト宗教集団、オウム真理教が考え行ったこと、その心理に極めて等しいの。

◎同じ本に共産主義者同盟赤軍派議長であった塩見孝也のこんな言葉が載っていた。

ドストエフスキーが幾人居ても描けないほど、連合赤軍事件は、人を寄せつけないような、エベレストを越えた、さらに峻厳なる高峰として聳立していたのでした」

◎数十年という時が経ても、こんな考えが当事者の頭のなかにはこびりついている。こんな事件を正当化している。こんな愚かで稚拙で蔑むべき事件を賛美し称賛し天に突き上げる高峰の如く讚えている。変わっていないのだ、愚かな行為をした人間の頭は何も変わらない。こんなガキの革命ゴッコ遊びで仲間の命を惨たらしく停止させた事件を未だに美化し、尊び、崇めている。卑しき思想に堕して腐敗した脳は変わることがないのだ。連合赤軍事件は、人を寄せつけないおぞましく腐敗した人間が蠢く、どこまでも地の底に続く底な沼であり、エベレストでも峻厳な高峰でもなく、まったくその反対のものなのだ。



連合赤軍事件は人数や規模という点で大きな違いはあるが、確かにオウム真理教に重なる部分を感じる。田原総一朗『連合赤軍とオウム わが内なるアルカイダ』という本には3つの集団を人間の弱さという点から検証しているということだ。近日中に読んでみる。

あさま山荘事件連合赤軍というものを知りたい、調べたいという人にとっては、この作品は最も手軽に手に取りやすく、分かり易い、しかし非常に重く厳しい映像資料的としての価値を持つことになるだろう。それがこの事件を多くの人に、末長く伝える一助にもなる。

若松孝二ブログ》http://www.wakamatsukoji.org/blog/2006/12/

【2010-05-12 日記】
赤軍 PFLP 世界戦争宣言』映画でなく退屈な資料である。
http://d.hatena.ne.jp/LACROIX/20100512
【2009-07-31 日記】
光の雨』 2時間10分、人間の凄惨な醜さを観る。
http://d.hatena.ne.jp/LACROIX/20090731