『エリン・ブロコビッチ』

●過剰な抑揚、強調、あからさまな部分を排除し、静かで、シニカルで抑制の効いたソダーバーグ特有の演出がジンジンと痺れのように伝わってくる。

●とても単純なストーリー、伏線やひっかけなども全く無く、姑息な小手先の演出など全く使っていない。それなのに面白いのは、ジュリア・ロバーツの演技、顔付き、動き方、セリフがじつに面白いということ、エドを演じるアルバート・フィニーがこれまたいい味を出して主役を引き立てているということ。

●たぶん、単純にPG&Eと住民、弁護士の争いとして描いていたらこういう面白さは出てこなかっただろう。エリン役を唯我独尊で辛辣でだけど豪放快楽でコケティッシュに描いたことで話は光り出した。

●ただし、実話は映画とは違ってもっとシビアでどろどろとした人間の思惑が入り交じった世界だっただろう。公害訴訟の実話の角をある程度丸め、エンターテイメント映画化したことがこの作品の成功要因でもある。ただ自分としては本来あった、実際にあったであろう厳しさや苦しさのトーンを緩め、万人受けする柔らかさで見せるという手法はすきではない。

●同じく社会制度や組織に対抗する女性が主人公の映画で「ノーマレイ」や「スタンドアップ」のようにギシギシと体を軋ませ、問題と体当たりでぶつかっていく映画のほうを自分は好む。それが真実として実話として本当の姿だろうからだ。

●「エリン・ブロコビッチ」はじつに面白い映画だ。流石手練のソダーバーグといえる、噛み締めて味が出てくるような作り、巧さ。だがこれはエンターテイメント、観た面白さ、fanの方に作りを振りすぎている。この映画を観た後、観客の心はジュリア・ロバーツの演技の面白さに、数百億という賠償金を勝ち取った痛快さ、その成功に華やぎ踊るだろう。だが、この公害のせいで苦しみ死んだ人、様々な病に犯され今も苦しんでいる人、賠償金が入ったとしてもこれからも苦しみ続ける人にどれだけ思いを寄せるだろう? 公害を垂れ流し、それを隠し、正当化し多数の被害者を出しながら生き続ける企業とその幹部にどれだけ憤りを感じるだろう? エンターテイメント化した面白さ、成功物語という影に紛らわされ、そこにあった現実の厳しさ、苦しさは、悲惨さ、非情さは薄められている。

●今でも実在する企業の実名を出して描くなど、製作には圧力や妨害も少なからずあったかもしれない。こういった形で映画にし多くの人に悪徳な企業倫理とそれに立ち向かう住民の姿を知らしめた功績は大きい、映画にはそういうことをする、出来る影響力がある。こういった問題を描くのはいつの時代でもどこの国でも大変なことだ。ダイレクトに、ストレートに、企業の酷さ、被害住民の悲惨さを忠実に描くか? この映画のようにエンタメ化して描くか? 事実を伝えるという意味では前者、多くの人に伝える、観てもらえるという意味では後者。興行として成功させるには後者、問題を提議し人々に訴えかけるのは前者。映画というメディアを使って社会問題を描くには、前者と後者は常に背反する。前者を選ぶことによって観る人、知る人は少なくなる。後者をえらぶことによって多くの人の目に触れ、知れ渡らせることができる。少ない人に観てもらうよりも、多くの人の中から何%でも映画の元に横たわる問題の大きさに考えを及ばせてもらうほうが、今の社会では効率的、効果的だろうか?

ジュリア・ロバーツは女性人気があり、カワイイから好きと言う声も多い。自分はガリガリ、ノッポ、鼻が尖り、性格もきつそうないかにもヒステリックで自己主張の強いアメリカ女という感じのジュリア・ロバーツをカワイイと思ったことが無い。ラストで二億近い小切手を受け取ってポカンと開けた口をほんの少しだけ動かすシーンはいい感じだった。

●BSの放送はハイビジョンではないが、やはりDVDよりは絵が美しかった。DVDが出た当時はこんなに奇麗な映像だと思っていたものだが、それが今では通常の地デジ、BS放送よりも画質が劣るのだから隔世の感すらある。BSを観てすぐにDVDに切り替えるとやはり画質は落ちるなと感じるがそのまま観続けていると字幕のギザギザ以外は余り気にしなくなる。

●日本語字幕が酷い。端折りすぎている。セリフの意味とは違う日本語に置き換えすぎている。DVD版とも比べたがどちらも一長一短。DVDで英語字幕、日本語吹き替え音声で確認すると、なんでこのセリフが字幕ではこんな日本語になっているのだと驚く。訳者が作品の内容を却って分かりにくくしているのではないかとさえ言いたくなる。まあ、こういう傾向は日本で公開される外国映画全般に言えることなのだろうが、もう少しセリフの意味や流れを考えて字幕を付けてくれ・・・といってもこれはいつまで経っても変わらないだろう。

Sheryl Crowの「Everyday Is A Winding Road」はグッド!
・-------------------[BD/BSデジタル]----------------[地デジ]----------------[DVD]
主流解像----------1920*1080p----------------1440*1080i-------------720*480
ビットレート-------25Mbps--------------------12-17Mbps前後-------------可変 4-9Mbps前後
主流音声----------DD,PCM等/AAC圧縮マルチ------圧縮2ch,マルチ--------ロスレス,2ch,圧縮マルチ