『恋するトマト』(2005)

・副題「クマインカナバー」タガログ語で「ごはん食べましたか?」の意味。

・最初のあまりにベタベタないかにもといった話しと展開に、もううんざりして「こういう映画か・・」と観るのをもう止めようかとさえ思ったのだが・・・そこを我慢して観続けていたら、フィリピンで農作業を手伝う辺りから俄然、絵も話しも良くなってきた。最初の1時間近くのふざけた演出は全部取っ払ってしまったほうがいい。(それが実際だとしても、あれではまるで田舎の農業と嫁不足、結婚できない中年を馬鹿にしチャカしているかのような内容だ)後半の真摯さと前半のオフザケがあまりに乖離し過ぎている。真面目な作品はきっちり真面目に作ったほうがいい。変なウケ狙いや観客に媚を売るようなギャグの演出は最低なのだ。前半をしっかり作り、素晴らしい内容の後半に繋げたら、ひょっとしたら名作にさえなっていたかもしれないのに・・・・。

・公開当初、シネパトスや地方の小さい小屋でなんとか上映されていたような作品であるようだが、それを6年という歳月を経て、NHK-BSで放送するというのは、これも素晴らしいことだ。こういう一般にあまり知られていない良作をNHKが取り上げるという姿勢は極めて高く評価できる。今回の放送が無ければ自分もきっとこの作品を知ることもなかっただろう。埋もれている良作を人目につく場所に持ってくるという意味でNHK-BSは映画製作者にとっても邦画にとっても貴重な場所となっていくだろう。回転率重視のレンタルマーケットではその役を担うことは出来ないのだから。

・こういうことが出来るのもNHKならではであり、NHKでしかできまい。批判も多いNHKだが、こと最近の映画放送作品の取り上げ方は非常に素晴らしい。こういう、ある意味埋もれた良作を家庭のTV画面に届けてくれるということではNHKは極めて価値ある存在だし、がんばって映画を作った監督や製作に関わった人たちにとっても、作品が多くの人の目にふれ、知って見てもらえるということでとても嬉しい事だろう。そういう機能は今の日本の邦画界や劇場、レンタル、ソフトといったビジネスの場には無いのだから。
こういったことも映画製作にとってDVD以上にBSの価値を高めていく一端になっていくのかもしれない。
まあ、その分、映画館やソフトの売り上げという部分ではもっと厳しさが増していくのかもしれないが。
JVAの調べではDVDソフトの売り上げは最盛期2005年の半分まで減少したという。http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/120117/ent12011708560007-n1.htm 潤沢なソフト売り上げから見込まれる製作費リクープに頼った邦画バブルは短日で完全に消沈し、同じく二次利用のソフト収益に胡座をかいていた洋画も収益構造の改変に喘いでいる。

企画・脚本・製作総指揮・主演:大地康雄
原作:『スコール』小檜山博、文芸誌「すばる」掲載小説

http://www.daichiyasuo.com/tomato1.html



配給&ゼアリズエンタープライズ