『日本の黒い夏 冤罪』

●『テレビは何を伝えたか』松本サリン事件をテーマとし長野県松本美寿々ヶ丘高等学校放送部が報道機関に取材した報道の在り方を問う映像作品と、それを戯曲化した『NEWSNEWS』をオリジナルとして映画化した作品。

●メディア、マスコミの在り方を問いかけた、長野県松本美寿々ヶ丘高等学校放送部製作のDVD『テレビは何を伝えたか』は先駆的であり、重要な映像資料なのだが、ビジネスには乗らない。(乗ることを考えたわけではないであろうけれど)ビジネスに乗らないということは一般流通は限度があるし、あの作品を多くの人が観るという状況にあるわけではない。図書館等で貸出はされているが、松本美寿々ヶ丘高等学校放送部の訴え、主張が広く世の中に伝わるには限度がある。劇作化されたり、表彰されたりしたとしても一般の認知度は低い。やはり映画と比較すれば多くの人へのアプローチという点で激しく劣る。

●あのマスコミが作り出した”冤罪”をその恐ろしさを多くの人に知らしめるには“映画”というメディアが圧倒的に有効だ。

●社会派といわれるようになった熊井啓がこの題材を捉えて映画化したことは大きな意義がある。願わくばこの映画を観た人が『NEWS NEWS』や『テレビは何を伝えたか』まで遡り、辿り着いてくれるならば、この映画の価値はさらに大きくなるだろう。

●正直なところ映画としては面白くもなく、演出もあざとらしく、決して褒められるようなものではないと思う。だが、この映画を知ることで、観ることで、観た人の心に呼び覚まされる不正や捏造に対する怒りがあるのであれば、この映画は十分にその価値を誇れるであろう。

浅川浩司(コージ)役:北村有起哉・・・の演技は極めて酷い。なんだこれは?と目を細めてしまうような酷い演技をしているが、もしこれが熊井啓があえてそうさせた演技だとしたら? そういうふうに考えると『テレビは何を伝えたか』でインタビューを受けていたTV局の記者の姿も映画の中のコージに似通っている。インタビューをした高校生にとってTV局の記者はこのコージのようにどうしようもない人間に映っていたのではないだろうか? あまりにわざとらしい、いやらしいほどあざとい演技なのだが、それが却ってマスコミの駄目さを象徴するイメージとして作られているのなら・・・この存在は在りかもしれない。

●大きな事件や事故はこういった映画という形で残さないと、後々の人に伝えることが出来ない、伝えにくい。映画にはそういう意味での価値と存在意義がある。

監督・脚本:熊井啓