『レッドクリフ Part II  未来への最終決戦』

●それにしてもこのサブタイトルは酷い。あちこちで言われているようであるが、まるでウルトラマンシリーズの映画版、ウルトラ兄弟が出てきて地球を救うとか、そういう映画に使うようなサブタイトル。この映画の宣伝チームは経験の浅い、知識の乏しい新米なんじゃないかと思ってしまう。それにしても酷い・・・未来への最終決戦って・・・初めてこのサブタイトルを見たときは思わずのけ反りそうになった。

●『レッドクリフPart I』の公開が去年の11月、半年以上も時間を空けてのPartIIの公開は定石通りPart Iのレンタルリリースと合わせているわけだが、正直なところPart Iがあの程度の内容でいきなりブチキレの終わり方をしていたのが気に入らなかったし、PartIIにもまるで期待はしていなかった。PartIであんなとんでもないブチキレ・ラストの映画にしてるんだから、PartIIではきちんと盛り上がった、赤壁の戦いをほんとに見せてくれるのか? という疑いもあった。そしてその予感は殆ど当たったようである。

●続編は最初からどうもまだるっこしい話ばかりで、それが延々と続いていく。クライマックスとなる赤壁の戦いが始まるまでは殆ど盛り上がる部分もなく、ちょっと溜息まじり。流石に戦いが始まってからは金に糸目を付けぬ豪勢な戦闘シーンの連続となり、まあまあ見応えはあったが、全体としては非常に平々凡々。特に取り立ててここが良かったというものもなく、かと言って、これはちょっとと言うシーンも無し。本当に可も無く不可も無くといった、スタンダードに徹した、もう標準中の標準といった映画であった。

●逆に考えれば、赤壁の戦いまで、なんら盛り上がりも山場もなしで2時間近くも話を持たせているのだから、それはそれで大した技量であろうとも思うのだが、余りにプレーン過ぎて、どうにもこうにもワクワクドキドキが全く無い。歴史物にあまり脚色を加えてドッタンバッタンとやったのではこれも問題ありだが、学校で(旧)文部省のお役人が作ったような退屈な教育映画を見せられて三国志のお勉強をさせられているかのような気分であった。

赤壁の戦いは確かにスペクタクルとして豪華盛大な映像になっているのだが、こういった砦を攻める、城を攻めるという映像は、どれもこれも「ロード・オブ・ザ・リング」でのヘルム峡谷の砦での戦いのシーンが頭に浮かんでしまう。ピーター・ジャクソンが描いたヘルム峡谷の砦での攻防戦は、古き時代の城攻めの戦略、手法を全て取り入れ、圧倒的なCGの力で今までに見たことの無いような戦いを表現した。このシーンは砦攻めのマスターピースとも言えるほどの素晴らしい出来であったため、その後、同じようなシチュエーションが映画の中に登場すると、もうものの見事にヘルム峡谷のシーンに似通ってしまい、砦を攻める武器や、戦略など全てがヘルム峡谷のシーンに被さって見えてしまうのだ。今回の赤壁の戦いのシーンも、火玉を投射機で打ち込むシーンや、楯を積み重ねて城壁を登るシーンなど、ヘルム峡谷のシーンに全くそっくりなのである。砦を攻める戦術はある程度手法も限られ、いかなる国や時代でも同じようなものになってしまうのだろうが、それだけに一番最初にトップクオリティーの砦攻めの映像を作り上げたピーター・ジャクソンの凄さが後々までも影響を及ぼしてしまっている。どれもこれもヘルム峡谷のシーンの二番煎じ、真似事に見えてしまうのだから困ったものだ。

●この余りにもというべき普通さ、平凡さが良くも悪くもこの映画の色であろう。しかしこれなら取り立ててジョン・ウーである必要もないし、ジョン・ウーらしい所もさして無かったと言える。

●パート1を観たら、やはりパート2も観て結末まできちんと鑑賞したいとは思うだろうが、余計なシーンをカットすれば3時間、いや少し多めに観ても3時間20分位の一本の作品に出来ていただろう。金儲けのためには二本にしたほうがいいが、おかげでしまりの無いダラダラした部分が特にパート2では目に付いた。

●尚香(ヴィッキー・チャオ)のスパイもどきの話や、ちょっとした恋愛話なども、これは要らないんじゃないのと思ってしまった。
尚香をデブ助と呼んでいるのも三国志のシリアスさには不似合いだ。
小喬役のリン・チーリンは相変わらずの気品ある、気高い淑女という感じで、まさに絶世の美女という役柄にはぴったりで、見とれるほどの美しさ。しかし最近日本に来てインタビューに答えたり、写真集やグラビアなどの画像を見たが、実物は小喬の気高いイメージとは全然違う、結構軽いキャラキャラしたような女優の用である。役柄とのイメージのギャップに少しばかり減滅。小喬のイメージは映画が作り出した魔術そのもの。
●パート1の批評でも書いたが金城武諸葛孔明役は驚くべきはまり役。日本人、いや世界で諸葛孔明を知っている人ならこれほどイメージにぴったりの役者をよくぞ誂えたと賞賛していることだろう。主役である曹操を食ってしまっている部分も多々あった。
三国志を知る人からすれば、異議、異論もあれこれあるようだし、知り合いも「曹操はああいった悪い男ではない」と言う人も居た。その辺りにまで踏み込むと意見が多様すぎるし、話に収拾が付かなくなるから、これはこれとして手軽な三国志入門映画として観ればそれで良しとすべき。

●それにしても余りにも普通過ぎる映画であった。これだけの巨費を投じて、大々的に作られた歴史ロマン、スペクタクルだというのに、これは凄い!驚いた!なんていうシーンがまるで無かった。ときめくシーンが一つでもあればもう少し良い事も書けるのだが・・・・その意味ではやはりレッドクリフ二部作は映画としてはなんら後々に残らない作品かもしれない。
 



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