『ヒルコ 妖怪ハンター』(1991)

●ホラー作品というのは殆ど観ないのだが、昨今のブームも自分としては?マーク。ホラーというよりもスプラッターに近いものも多い。ホラー好きな人というのはなんだか距離を置いてしまうのだけれど。

●異色な世界をマンガで表現しつつけている諸星大二郎だが、ホラーブームのお陰なのか2005年に「奇談」、2007年に「壁男」とマンガを原作とした映画化が行なわれている。それでもやはり特異な作品であることから劇場でヒットするというわけでもないし、製作者や監督が諸星大二郎ファンということで映画化されたという感じであろう。

●「ヒルコ 妖怪ハンター」が映画になっていることは知っていたが見る機会が無かった。もう17年も前の作品でもある。今年の年末興行はどうもこれといった作品がなく、観ても観なくても良いような映画ばかり。自ずとまだ未見の古い作品に手が伸びることとなる。

●CGなんてものもなかった時代に作られた映画ということもあり、今の映画になれた目からするとこの映画はホラーというよりももうギャグなんじゃないの?と思えるほどおチャラけである。妖怪ヒルコもいかにも作り物というかんじで怖いというよりも微笑ましい。

金田一探偵のように妖怪ハンターをシリーズ化しようとでもしていたのだろう。稗田と金田一が重なるようなシーンが見受けられる。

●脚本は殆ど失敗している。何も予備知識の無い人が一度観ただけでは「何じゃこりゃ?」と思ってしまうであろう飛びの多いストーリーである。監督、脚本を担当した塚本晋也がなんとか新しい面白さをストーリーに持ち込もうと苦心賛嘆したのだろうが・・・・・破綻してるなぁ。

●観る側としては、まるで前作があるかのようなセリフ、前作から続いているようなお話が何箇所か入っているのだが、これってこの映画が成功したら、一つ前に戻ったパート2を作ろうとしていたのか?まるでスター・ウォーズ・シリーズのルーカスの手法を取ったかのような感じだが、この作品がこの出来ではとても次作の話には繋がらなかったのだろう。よってこの作品自体もなんだかわけの分からないものなってしまっている。脚本を書いた人物の突飛な発想だけで突っ走ってしまった失敗例であろう。

●作品の内容は・・・語っても仕方ないレベルである。マンガを読んだほうがよほど良い。

●しかしだ、この映画を観てちょっと面白いものを感じた、久しぶりに思い出した。それは田舎の夏の風景、田んぼ道や古びた校舎、夏の空、土の校庭・・・・映画の中に映しだされる絵に懐かしいものを久し振りに物凄く感じた。今から18年も前だけれど、日本の田舎の風景は確かにこんな感じだった。「天然コケッコー」などで今の日本の田舎で撮影した映画もあるのだけれど、この映画に出てくる風景の方が昔あった本当の日本の田舎の風景に思える。それは自分の子供の頃の原体験にこの風景が近いからかもしれない。沢山の映画を観ているけれど、この映画の”夏”の風景、夏休みの学校の感じ、見え方、そういったものが実に美しくて素朴で、本当の夏を感じさせる。意図して夏を撮ろうとした映画でもないのに、他の幾多の映画よりも、この映画に映しだされる夏は懐かしさと仄かな心の中の思い出を強く引きだしてくる。冒頭田んぼの広がる田舎道を自転車で走る月島の絵は非常に美しいく日本の自然の美しさを感じさせる。風に揺れるまだ青々とした稲の田んぼも心が和む。癒しなんて言葉は好きじゃないが、このワンシーンだけでなんだか癒される気持ちがした。
んーこれは不思議だ。

●こんなホラー映画でどこを観てるのという感じでもあるが、この映画、絵が何故か非常に柔らかである。CG、エフェクト全盛の今とは違い、殆ど素で撮影してギタギタした修正をしていないのが良いのであろう。この映画を観ていると画面のトーンが柔らかで優しいのである。撮影や当時の雰囲気がこんな感じだったのだろうか? 刺々しさの無い穏やかな雰囲気を映画の中から感じる。

●そして、登場している役者達が何故か一様に巧い。目を真ん丸にして演技する沢田研二もなかなかだが、学生役を演じる上野めぐみ(月島令子役)、工藤正貴(まさお役)がなかなか。なんだか熱が篭ってるんだよなぁ演技に。真面目に、真剣に役に取り組んでいるという熱さが伝わってくる。最近のアイドルや人気女優が演技を考えもせず素でちゃらちゃらやっている演技とは重さが違う。ここに出ていた役者がその後は余り花開いていないことは残念なのだけれど。

●ロケ地:富山県下新川郡朝日町、駅でいうとJR北陸本線の泊の辺りかな? 北アルプスの麓、黒部川日本海に流れ込み、親不知が直ぐ近く。今でもこんな田んぼの風景が広がっているのだろうか? 夏に行ってみたいものだ。


●このサイトの感想は自分の思っているものに近い。開襟シャツに黒ズボンの学生の姿というのも確かにノスタルジックだ。http://www.fnosta.com/38yo/hiruko.html

●平成20年度(第12回)文化庁メディア芸術祭 マンガ部門優秀賞に「栞と紙魚子」(諸星大二郎)、「宗像教授異考録」(星野之宣)のお二人がそろって選出されているというもの興味深い。諸星作品は「奇談」「壁男」と映画化がなんとかあれているのだが、星野作品は「2001夜物語」に一部がOVAになっているのと、宗像教授がTVドラマ化されている程度。日本のマンガのなかでは希有な存在の二人だが、その作品は色が強すぎるのだろうか、なかなか映像化されないようでこれは非常に残念なところでもある。

●この作品もある種のカルト的な存在となっていくのであろう。