『山の郵便配達』(1999)

●父と子、純朴な生き方。その生き方を子に伝える旅。

●美しい山間地の映像。技術的なハイビジョンとか走査線の数とかいったもので表現される美しさを越えた、自然の風景そのものが持っている本当の美しさ。映る映像が高精細な映像ではなくても、映っている風景、自然に本当の美しさがあれば、観る物の心はその美しさを感じることが出来る。音楽もいい。

●川面をとびかう無数のトンボの映像が非常に美しい。簡単に撮れるような映像ではない。

●父を背負い川を渡るシーンに感涙。父と子、成長し父を越えてゆく息子、それを喜びながらも複雑な思いを持つ父、いつの世、どんな時代、どんな国でもこの思いは共通したもの。人生の喜び、哀しみ、侘びしさ。人は皆同じ道を辿るのだろう。

●公開から10年経って、あまり話題にのぼることもなくなった気もしているが、これは中国映画の中でも、いやもっと大きく映画全体の中でも末長く語られ多くの人に観てもらいたい不朽の名作。

●約10年前、日本ではちょっとした中国映画のブームだった。『初恋の来た道』と同じ年の公開でこの映画も銀座のテアトル西友かシャンテシネあたりでやっていたのを最終回に駆け込んで観た記憶がある。
あの頃の中国映画ブームはやはり癒しとか美しさを求めたものだった。今こういった中国映画は殆ど見ない。

●最近はこういった文芸的中国映画が日本で公開されるというのは少ない。今の中国はこんな純朴で美しい作品を作っているのだろうか?ハリウッド的な映画にばかり傾倒してしまい文芸的作品が影をひそめてしまっている気がする。

●10年前はまだ日本も調子が良く、先進国として上の立場で中国を見ていた。都会のビルで勤めるOLやサラリーマンは「こんな純朴な美しい風景がいいね」「中国のこんな素朴さがいいね」などと言って無機質な日々に心の潤いを求めていたいた。10年経ってそんな状況はがらりとかわり、中国沿岸部は大都会になり、アメリカに行けばマンハッタンやニューヨークは中国、台湾、香港などの金持ちで溢れ日本人は目立たない。時代の流れ、変化に日本が取り残されたかのようでもある。

監督:霍建起(フォ・ジェンチー)