『カンナさん大成功です!』

韓国映画、香港映画はあまり観ない。特にギャグ、コメディー映画はずっと観ていなかった。あまりにドギツク、えげつない笑の表現に辟易、うんざりしてしまうからだ。笑い、ギャグなのだからさらっと単純に可笑しく笑いたい・・・なのに、韓国や香港の映画で表現されるギャグの一部はあまりにドロドロしている。社会的格差、年齢格差を元にした差別的なイジメシーン、単純に笑えないようなドス黒さで徹底的に相手を貶めたり、暴力を振るったり、メタメタになるまで痛めつけたり、精神的なダメージを与えるようなセリフを使ったり、顔をぐちゃぐちゃにしたり・・・そういうシーンが目に余る。映画を観ている気分を害する。オイオイ、いくらギャグだとは言え、そこまでえげつないのってやりすぎだろう。そう感じていた。「猟奇的な彼女」にしても「少林サッカー」にしてもそう。単純に楽しめないし、えげつないシーンが作中に入っていると、そういうシーンは非常に下品であり作品を観終えても後味の悪さ、不快感が残存した。「こういう映画はどうにも好きになれない」と思ってしまう。

●これはやはり国のカルチャーの違いなのだろう。やりすぎと思えるほどの過剰な貶め、暴力、いじめ、それを映画のなかでギャグとして楽しむというのは今の韓国や香港、その他アジア圏での映画の中では違和感の無い表現、それがギャグになっているのだろう。自分はそういうシコリの残るギャグやコメディーは面白いとは思わないし、まるで観たいとは思わないのだが。

●2008年1月に日本版(という言い方も妙だが)の『劇場版 カンナさん大成功です!』が公開されるので、今回はオリジナルを観ておこうかと思った。

●相変わらずのドロドロさは今回は濃くはないがやはりストーリーのベースに漂っている。だが、このくらいなら何とか大丈夫という感じ。それにしても今の韓国、香港の映画、ドラマってどうしてもどんよりとした雲が頭の上から覆いかぶさっているようで、重たい空気が流れている感じがする。社会環境がそのまま映画にも繁栄されているのだろう。なにか思いっきりふっきれない、パーとした晴れやかさ、爽やかさがない、どこか影を引きずっている感じがする。この映画で言えば痴呆症かなにかで施設に入っている父親のことだとか、韓国で蔓延する整形手術のことだとか、ショービジネスの裏事情だとか、もちろんそういうものはどこの国にでもあるのだろうが、こういう素敵なサクセスストーリーなのだから、ドロドロしたものを話の中にいれず、もっとすっきり爽やかな映画にしてほしいと思ってしまう。別に対比法って程の演出でもないだろうし・・・。

●所々で韓国のいろんな実情を皮肉くっているところは興味深い。やはり国が違うのだなと感じてしまう。ラストで自分が整形手術をしたとカミング・アウトするシーンは「パッチギLOVE&PEACE」でキョンジャが自分が在日であることを告白するシーンに似ている。

●セットの部屋や、コンサート会場、そこに集まるファン、コンサートの様子など思った以上に凝った作りをしていて、これは結構お金を掛けているなと思わされる。この辺りを見ていると邦画よりも映画にかけるお金が全然違うなと思える。シーンが手抜きされず、豪華な作りなのだ。

●サンジュンが自分の部屋(これはずいぶんとまあ豪華な部屋だが)に招いたジェニーと向かい合って話をするシーン。ラブホテルかと思えるような豪華な部屋でテーブルに向かい合ってシャンパンかワインを飲みつつ話をするのだが、美しいテーブルの上にのっているのは木枠の器に盛られた刺身、いわゆる船盛り。これには笑った。どうみてもアンマッチ。これって意図的にやってるのだろうか?それとも韓国ではこうして刺身をツマミながら愛を語らうのがゴージャスなのだろうか?うーん、この妙チクリンさは傑作である。

●話が下半身、ベッドシーン、セックスに進まないのはこういう芸能界だとかの映画で珍しいが、脚本家は敢えてそういったシーンを排除したのだろう。そこがまたこの映画のよさでもある。そういうシーンが入っていると夢物語が台無しになるし、いつものドロドロがまた表に出てきてしまうわけだから。

●ラストでは全てを告白し、逆に割り切ってふっきれて、心にかぶさっていたもやもやが全部取れて堂々とした姿のジェニーがコミカルに映し出される。これは非常に良い。最後の最後でスッと晴れやかな気分にさせてくれる。この映画には今までの韓国映画のドロドロ部分も相変わらず入っているが、それが嫌悪するほど酷くは無く、エンターテイメントとしての娯楽性が高く、最後の爽やかさは今までの韓国映画から少し抜け出したかのような雰囲気を感じる。これなら韓国での大ヒットも理解できるし、日本でも特に女性には受けるだろうなと納得。

●ちょっとホッとした気持ちにさせてくれる、夢物語と言える。

●それにしても日本の人気マンガに目を付けて、それを題材として韓国で映画化されるというのは嬉しいことだが、日本のプロデューサは一体何をしてるのかね?とも言いたくなる。話の内容は殆どオリジナルストーリー、原題は「200 POUNDS BEAUTY」としているが、原作の設定を借りただけであるのにキチンと日本の鈴木由美子「カンナさん大成功です!」の映画化としているのが素晴らしい。そのほうが宣伝、動員には効果的というのもあるが。先ごろの「イキガミ」のように明らかに星新一の原作小説の設定を拝借しているのに「そんな小説は見たことも読んだこともありません」などと馬鹿でも分かるような嘘とシラを切り通す連中とはそのレベルの差は大きい。

●今公開されている「ハンサム・スーツ」もちょっと考えてみると「カンナさん大成功です!」の設定を男に置き換えて話を作り替えたものではないのか?と思えるのだ。

●日本の人気マンガの映画化に最初に着眼したのが韓国。その韓国製映画が日本に輸出され、日本でもスマッシュヒットを記録した。そうしたら今度は日本で「劇場版 カンナさん最高です!」が製作され来年公開されるという。明らかに後手後手に回ったやりかた。韓国製の映画がヒットしたから、じゃあ日本でも作ればある程度ヒットするだろうという読み。こういう状況を見ていると、日本の映画業界は韓国に大きくセンスで負けている、ビジネスの触覚でも劣っていると言わざるを得まい。

●来年公開の映画は山田優南海キャンディーズ山崎静代がキャスティングされている・・・どうなることやら。この二人でカンナさんをやるのだとしたら・・・全然ダメっぽいなと予想してしまうのだけれど。