『ラヴァーズ・キス』 

●鎌倉を舞台として作られた小粒だけでちょっと気になる映画。

●この映画、劇場公開されたときは全く知らなかった。(そういう小粒の邦画をいっぱい拾い上げていこうという思いだが)

●実はこの映画の原作となったコミックも、作者である吉田秋生さんもまったく知らなかった。まあ個人のカバーする知識と欲求の範囲なんて割と狭いし、頭に入る量も限度があると思うので、自分の興味のわいたこと、自分のアンテナに引っ掛かったこと以外は殆ど知らないというのが大方の人の真実だとおもうが・・・・知らないことを正当化してるか? 

吉田秋生さんって女性向けコミック書いてる人だから普通の男はよっぽどでなきゃ知らないんじゃないの?と思うけれど。

●この作品も出演者はそこそこ人気のある役者ばかりで今では相当にメジャーになってる人もいる。でも撮影期間も非常に短く、低予算で作られた映画。それでも東宝の配給で役者も揃えて、ある程度メジャーな原作コミックを映画化したということでは恵まれている作品であるかもしれない。でもね、やっぱり認知度は非常に低い。これだけ大手が製作に絡んでいても・・・・やはり一般に広く認知されるのはほんとうに一欠片の作品しかない。その殆どはストレートに言えばどれだけ宣伝が出来たかによる。(作品の質ではなくて)

●この作品が2003年の夏にDVD化されることが決まったとき、鎌倉で発売記念の上映会が開かれ、自分はそこでこの作品を知ることになった。残念ながらその上映会には都合が悪くなっていけなかったが、その後当時あったHPなどで色々と作品の事を調べているうちに興味が出てきて、DVD発売と同時に購入した作品。

●原作のコミックをまるで知らないので、非常に素直にこの映画に入っていけたが、最初観たときに「あ、なんか映画全体に流れている雰囲気がいいね、潮風のような感じがするね」と思った。鎌倉やR134沿いの様々な風景が巧くフィルムに乗っているんだろうな。そういう雰囲気っていつも同じ雰囲気を感じている人でないと分かりづらいものなのだろうけれど。

●映画の最初から「オイオイ凄い事やってるね」と言いたくなるような長回しの移動撮影にまずは驚き。途中途中も結構斬新なクレーン撮影や上から下から工夫を凝らした面白い移動ショットが転がっている。特に移動撮影はどうやってこの動きをコントロールしたのかな?なんて考えながら観ると面白い。

●最初に観たときは雰囲気もあるけれど、青春ありのままの懐かしい感じに「うわ、これイイ映画」と手を叩いて感動してた。映画というのは面白いもので、最初に観たときと少し時間が経ってから観たときで大きく印象が変わるものがある。パイレーツ・オブ・カリビアンなんて劇場の大画面で観たときは「凄い面白さだ、インディージョーンズ以上だ」なんて思ったが、家のTVで観ると、もちろん画面の小ささもあるのだが(実はそんなに小さくはない)あの活劇のダイナミックさやワクワク感が全然感じられなくなっていて「あれ、こんなにつまらなかったっけ?」って思ったりした。

ラヴァーズ・キスも最初に観たときにとても気に入り、時間を置いて何度か観ているが、その都度粗も見えてきて段々と思い入れの高かった映画が少しづつそうではなくなってきたという作品である。ダメっていうわけじゃなく、ある時期、ある場所でこの映画を最初に観たときの感動はそのまま残っていて、それはたぶん色々なその当時の状況が自分にこの映画を好きにさせていたのではないかな?と思える。その時の自分の存在との共振というかそういうものなのかもしれない。

●主演は平山綾(ウォーター・ボーイズの時はこれ以上ないってほど輝いてた)で、ちょっとこれまた影を持つ女の子を演じている。
そして宮崎あおい!ナナやNHKのドラマと最近は超メジャーになっているが、このラヴァーズ・キスの時の宮崎あおいが一番可愛くて輝いて演技してるって感だ。若さの旬だったのかも。その他にも男性陣から女性陣まで3年前には考えられなかった位メジャーになってる人たちばかりが出演している。そういう存在を集めたのはすごいことかも。

●まあこれだけ語っておいて放りだすようなものだが、気に入る人は凄く気に入るだろうし、そうでない人にはなんでもないただの恋愛映画ってことになるかもしれない作品。

●この映画、音楽が割と良くて、沢山のクラシックの名曲が作品の雰囲気を盛り上げている。またラストで掛かる唄もいい感じだ。これって誰?と調べたら白鳥マイカというシンガーだった。こういった意欲的な作品でテーマ曲を歌えるというのは凄いチャンスだし、良いことなんだけど、その後、白鳥マイカの噂が聞こえてこないのが少し残念。

●「ラヴァーズ・キス」オフィシャル・ガイドブックも手に入れて読んでいたら、原作者の吉田秋生さんが「好きな映画ってなんですか?」というインタビューに答えて「『ライトスタッフ』と『ビッグ・ウェンズデー』」なんて言ってるので驚いた。自分の超お好み映画のベスト10に入っているのと同じである。『ライト・スタッフ』明らかに男向けの映画だし、『ビッグ・ウェンズデー』も男向きの映画だと思う。しかも映画関係者この二作を好きだって人が割と多。なにか共通の波長があるのかも?そして吉田秋生は『スター・ウォーズ』も好きだと言っている。吉田秋生の作品は女性が書いているにしては男性的な絵とストーリーだと言われているらしいが、これだけ男が好きな映画を「好きだ」って言ってる女性なんて聞いたこともないから・・・・やはり吉田秋生は女性だけど相当に男性的な感性が入っている人なんじゃないだろうか?