『君の名は。』

・異様にでっかい目、瞳の中に星というか白い光が1つ2つ・・・なんかこういういかにも少女漫画雑誌に出てくるキャラそのまんまでアニメオタが好むようなキャラクターには正直もう、かなりの抵抗感があり、ちょっとそれはなぁ〜っていう拒絶感もあって、さてはてどうしようかと考えていたのだが、新海誠に関しては種子島が舞台になっている『秒速5センチメートル』が少女趣味ではあるがなかなかに良い作品であったし、とにかくロケット打ち上げのところとか、都会の春の映像とかがものすごく美しく綺麗だったので、今回もそういった部分に期待して観てみた。

・最初は瀧にしろ三葉にしろ登場人物の顔つきがあまりに少女漫画、アニメっぽくて、やっぱり抵抗感がありありで、ちょっと引き気味であったのだが、段々、段々と非常にテンポのいい展開にドンドン引きずり込まれていき、しかも先がどうなるか全く予想が付かない、次から次へと驚きの展開にもう「これは面白い!」と夢中になってしまった。

・昨年、かなり早い段階で公開された特報の美しい彗星と雲を突き抜けて落ちてくる隕石らしきものの映像、まさかそれがこんな話になるとは、本当に予想外で見事であった。

http://www.youtube.com/watch?v=RBBrZ3d2sJE:movie:W600

・「誰そ彼」「彼は誰」薄暗くなった夕方は人の顔が見分けにくく、それが誰そ彼(たれそかれ)から黄昏という言葉になり、同じく薄暗い明け方を彼は誰(かわたれ)で、と古典の和の言葉が作中で語られる辺りから、ん、ん、なんだか話が深くなってきたぞと期待が膨らみ、それがこんな凄いストーリー展開に繋がっていくとは!!

・「誰そ彼」つまり夕方の薄暗くなる、昼と夜の移り変わる時刻、黄昏どきが、逢魔時(おうまがとき)、大禍時(おおまがとき)と呼ばれ、魔物に遭遇する、あるいは大きな災禍を蒙るという話はこの映画を観て初めて知った次第。

・入れ替わった瀧と三葉が、薄暗くなって、あなたは誰、彼は誰とわからなくなる時に時間や空間の壁、距離を超えて巡り逢う、その黄昏時のほんの一瞬の恋、しかしそれは好きな人に出逢う時間でもありながら、逢魔、つまり魔物にも出会ってしまう時間、その魔物が大きな禍(わざわい)とは・・・んー、新海誠はなんて凄い物語を考えついたんだろう。素晴らしい、見事な脚本、物語だ。

・口噛み酒(くちかみさけ)なんていう神事とか、岩室のなかにあるお洞だとか、日本の神話、伝記、古事記なんかに通じているようなモチーフも作品になんとも日本的で神秘的な響きを与えている。

・日本の映画って、なんだか外国のヒット作の、ああ、これってあのシーンだとか、あの演出とかを取ってるなぁ、と感じてしまうところが多いのだが、この『君の名は。』に関してはそういった所がまったくなかった。男女が入れ替わってしまうというは大林監督の転校生ばりではあるが、またそれとはまったく別物だし、兎に角観ていて他の作品を彷彿させる場面がほとんど全くないのだ。昨今の映画は作中に「これってあの映画のあのシーンに似てるな、取ってるな」なんて感じる所が一箇所、二箇所位あるものなのだが、この映画に限ってはまったくそういう風に感じさせる所がない。完全純粋100%オリジナルの絵であり、物語であり、展開であり、演出なのだ。もうそれは全部が今まで見たことのない映像、演出、物語と言ってよく、その連続は一瞬足りとも観ていて飽きない素晴らしい作品でありその体験でもあった。

・映像の美しさは言うまでもなく、美しいという以上に心がなんだかホッとする映像なんだな。日本人が生まれてからずっと身近に感じてきた日本の美しさ、すぐそこにあるいつも感じているだけどなかなか最近では見れなくなった美しさ、そんな感じだろうか。キラキラしてるけどキラキラした美しさではなくて、優しく包まれ心を撫でられているような美しさ、そう視覚的な美しさ以上に心情的、情緒のある心に伝わるあたたかい感覚的な美しさがあるというべきだろう。

・なんにしても、この映画は兎に角驚き! 日本にしてもハリウッドにしても最近はオリジナル脚本はダメ!興行が読めない、見込めないから映画化は出来ない!なんて言って、ある程度売れていて知名度のある小説とか漫画とかのアニメーション化、または実写映像化しかやらないような絶対安全牌主義、超保守的で興行成績が見込めない映画なんて作らない!的な風潮が蔓延していて、実に新しさのない詰まらない映画ばかり量産される状況になってしまっているが、こんな風に完全無欠のオリジナルストーリーでこれだけ素晴らしい作品が出来るということにもう一度目を向けて、ネタ切れだ、もう新しい物語は作れない。コケたら責任取らされるから作れないなんていうのはヤメて、今まで誰も見たことのないようなストーリーを作ることに全身全霊を傾けて知恵を集結させるべきだろうな。

でも、新海誠というネームバリューがなかったら、完全オリジナルストーリーで映画化なんて・・・とても出来ないだろうなとも思えてしまうけど。

・こんな素晴らしいオリジナルストーリーの美しい映画を見せてくれた新海誠とスタッフにただただ感謝したいキモチだ。兎にも角にも観ていてワクワクドキドキ、この先どうなるんだと期待して最後まで全然飽きること無く楽しめた素晴らしい一作であった。

・RADWINPSの曲、見終わって一つとして曲の歌詞が頭に残っていなかった。普通は音楽の歌詞が映像をさらにもりあげてくれたりするし、ジーンと染みこんできたりするんだけれど、全編に流れる野田洋次郎の声と、その音楽というかサウンド、音が余りに映像にマッチしすぎていて、歌詞が意識に到達しないくらい音になって歌もサウンドも全部がBGM化しているかのようだ。これって凄いことではあるが、ある意味歌詞が強い意味を持たなくなってしまっているとも言えるかも。

・最後に一言、皆が助かったのが防災訓練でどうとかこうとか・・・って説明されてたけど、それはちょっと話が飛躍しすぎてて繋がんないんじゃない? と思った。あの状況でどうやって防災訓練でみんな避難させたの? ちょっとそこだけが引っかかるというか、全部良かった中でなんか脚本ミスってるような気がするなぁ。どうなんだろ?あれ?

☆予告編の中ではこれが一番イイな。