『 TO (トゥー) 楕円軌道』

●オープニングのホワイトバックにメカニカルな宇宙船や機械などが浮かび上がってくる映像は好い。

●このストーリー構成はわかりずらい。というかオリジナルの漫画作品『2001夜』物語を読んでいないと話が良く分からないのではないか? ダンとマリアの関係の時間を越えた複雑さがこのストーリーの流し方ではたぶん初見の人ではまるでわからず、その意味深さも伝わると思えない。最後の最後であの台詞をだされても「へ?」とシラけてしまうのではないだろうか。要するに原作が持っているストーリーの奥深さがこのアニメではまるで伝わってこないということだ。

●映像は確かに美しい。ミッドナイト・バズーカの造形、細部まで描き込まれたマシーンの細かさはさすがと言える。だが、人間の動きは相変わらずぎくしゃくとし直線的で違和感だらけだ。アップルシードなどから続く、アニメーションに人体のモーションコントロールを取り込んだ技術はこの作品では生かされていない、というか使われていないのではないか? そう思うほど人間の動作は不自然で直線的。予算の関係でそこまでやれなかったのか? 顔に映る影の描写もなにか不自然・・・あえてアニメっぽさを残しているのだろうか?

●マリアがあまりに美形に描かれ過ぎている。ベクシルの主人公に殆ど似たような顔だが、それ以上に美形。しかも20代前半のような若々しさ。これも原作とは異なる部分だ。原作のマリアは(年齢はわからないが)もうすこし歳を取った30歳前後の女性のイメージだ。人生の厳しさも、男と女のどろっとした部分も自分のなかに受け入れ、そして生きてきた強く悲しい女性という風貌だからストーリーに説得力がある。しかしこのアニメ版のマリアはあまりに若く、あまりに美形で、苦しみや悲しみを心の中に抱えそれでも生きていこうとする女性というイメージに繋がらない。思いきりキャピキャピの22,3歳のファッションモデルのような容姿だ。これではダンとの関係に説得力が出てこない。

●マリアは美形であるし嫌いというわけではないが、最初に絵を見たとき「ちょっとアニメチック過ぎるし、アニメファン好みの美人に描きすぎている」と怪訝に思った。アニメファンはこういった美形、胸の大きく、くびれがはっきりしていて、メガネをかけていたりする女性像を好むのかもしれないが(エヴァンゲリオンの女性キャラみたいなものだ) Tシャツにバンダナという格好もどういうものか? 作業船なのだから原作漫画のように汚れたツナギの方がよかっただろう。

●原作のイメージ、世界観と離反してしまうようなキャラを描いたのでは作品そのものが説得力を失ってしまう。ダンは原作に近いイメージで描かれているのに、なぜマリアをあそこまで変えてしまったのか? 売るため、アニオタに訴求するためか? 「ベクシル」の主人公にもそっくりの顔立ちだから曽利文彦の好みか? なんにしてもこれだけの美人というのは見ていて悪くはないが、作品のクオリティーを、ストーリーの奥深さを出すという方向にはまるで役に立っていないと思う。

●宇宙船がスクリーンの端から出てきて、船体をずっと舐めるように画面の中を進んでいくシークエンスは、スター・ウォーズから始まりエイリアンでもなんでももう使い古されたあまりにあちこちで使われすぎているアングルだ。このアングルでのシーンを見るといつもスター・ウォーズを思い出してしまうし、もう誰が見たってスター・ウォーズのスターデストロイヤーが現れるシーンの真似と分かるのだから、こういった描き方は止めればいいのに、止めるべきだと常日ごろおもっているのだが、このアングルでしか宇宙船の大きさ、スケール感を出す方法はないとでもいうのだろうか? 監督なら使い古されたイメージのシーンは自分は絶対に使わないという決意でもしてもらいたい。それはこのアニメだけに限らず、SF作品全般に言える。

●本編42分という短さだから絵の美しさを見ているだけでなんとかだれることはなかったが、やはりこれはアニメちっくなアニメ。原作の良さは映像作品として昇華されていない。『ベクシル』がなんともがっかりくる作品であったのでこの『 TO (トゥー ) 楕円軌道』はどうだろうと不安があったが、映像は良くてもストーリーテリングがまだまだあまりにつたないと言わざるを得まい。


☆2010-03-06 『 TO (トゥー) 共生惑星』 映像の美しさではこちらが上か。http://d.hatena.ne.jp/LACROIX/20100306