『ヒア アフター』(2011)

・これまでのクリント・イーストウッド監督作品と比較すると物足りなさがあることは否めない。これまでのイーストウッド監督作品はどれもこれも観終えた後にかなりの衝撃や感動を受けるものばかりであった。それに較べればこの作品は淡々としたものであり、最後もスーッと静かに消え入るように幕を下ろす。それはこの物語、作品の質的な部分に関わるのであるから仕方がないことなのかもしれない。

・死後の世界という少しばかりオカルトっぽい話を映画の主題として選んだクリント・イーストウッドはそこに派手な演出や山場を設けることをせず、物語を淡々とじっくりと語ることを選んだ。そう捉える。

クリント・イーストウッド監督の作品は好きであるから多少なりとも贔屓目で見てしまうが、今までドンと胸を揺さぶるような感動作を続けて来たイーストウッド監督が、今回は映画の手法として平坦に淡々と静かに訴えかけるような手法を取ったのかもしれない。

・映像の質も高いし、淡々としているとはいえ詰まらないと感じたり、飽きるような部分はこれっぽっちもない。イーストウッド監督の下に集まるスタッフも現在の映画界では最高水準の人たちばかり。映画を構成するカメラ、美術、CGI、脚本、役者、演出と何から何まで文句の付けようのない質だ。

・高い質を作り出しながら大きな感動まで心を揺らされない。しかしこれもクリント・イーストウッドの監督作品の多様さの一ページとなることだろう。

津波のシーンは壮絶で、背筋が震えるほど真実味があり恐ろしい。綿密に津波を研究し波の動きや水の流れ、そこから引き起こされる渦、流される建物、車、人・・・波しぶきと渦で水の中に引き込まれる人。流されてきた車に押し潰される人・・・目をそむけてしまう場面もある。

・311の津波もまさにこんな状態だったのだろうと思うと、胸が苦しくなる。311の津波の場合はあの真っ黒な墨汁のような津波だったのだから、水に飲み込まれるというよりも黒い化け物に飲み込まれるといった感じだったのかもしれない。

・余りにも真実感のある津波シーンであり、この映画を311の地震津波の後に公開中止としたことは理解できる処置だ。あの頃この映像を見ていたらと思うと・・・どう感じていたことか、どう恐れがやってきたことか。

クリント・イーストウッドの次の作品にまた期待したい。