『旭山動物園物語 ペンギンが空を飛ぶ』

●動物園の映画というとまず観ようとは思わないのだが、旭川の動物園がなぜこんなに人気になったのか? 降って沸いたかのように急にあちこち話題にに上るようになり、身近な人も行って見たいというようになった。自分のアンテナの外にあった北海道の動物園というものが驚くほど急に人気になった理由は? プロジェクトXで取り上げられたというのがブームの火付け役、日本全国への情報伝播の原因であったというのは確かだろうが、もう少しこの動物園の成功物語を知りたいと思った。

旭山動物園のことは何冊か本にもなっているし、TVドラマにもなっているので、そういうものも含めて見ればもっと詳しくわかるだろうが、この映画は殆どプレーンに旭山動物園の歴史をなぞっているようで、日本でトップクラスの動物園になるまでの経緯は大雑把であろうけれど分かった。

●この映画のどこまでが事実に即していて、どこが脚色された部分かというのは映画を一度見ただけでは分かろうはずも無いのだが、実在の動物園の実際のストーリなのだから、多少の脚色はいいとしても、大きな部分で事実とは違う設定を持ち込むのは今ひとつ頂けない。この手の実話に基づいた映画は、(基づいたということであり実話そのものではないとしても)普通に観ている側としては映画の殆どを事実に即したストーリーとして受け取ってしまうのだから。

●入場者が少なくて、廃園というところまで来ていた旭山動物園を救ったのは女性新市長のレジャー施設導入計画。そこを契機として旭山動物園は人気、入場者数のV字回復をするというのが大きな山場になっていたが、旭山動物園に予算を回して、行動展示という日本でも珍しかった動物園の形を実現させたのは前旭川市長の菅原氏(男性)だということであるし・・・・何気にこの映画を観た人は、たぶん多くの人は、実際に旭川市に女性市長が誕生して、その女性市長が旭山動物園を救ったのだ、それが史実なのだと思うのではないだろうか?

萬田久子の女性市長役は悪くは無かったのだが、実際に起こった事実に基づいた映画として考えると、この脚本、脚色はちょっとどうかな?と考えさせられる。

●映画は極々普通の展開。淡々とこういうことがあったんですよとお話を見せられているような感じであり、盛り上がりも少なく、かなり詰まらない、退屈さが10分おきに首をもたげてくる。

マキノ雅彦津川雅彦)がなぜに70近くになって監督を?と甚だ疑問符が頭のなかに沸いたが、長年の役者活動を続けてきて、自分でも映画を撮ってみたい、映画監督をやってみたいと思ったのであろう。アメリカならクリント・イーストウッドも随分歳をとってから監督業に乗り出し、今までの役者人生の積み重ね経験を元にしたようなクオリティーの高い作品を連続して出し続けているが、残念ながらマキノ雅彦監督のこの作品には映画としての目だったよさは見つけられない。監督の個性だとか、作家性だとか、思い、主張、主義・・・なんだかそういうものが全く感じられない。昭和の初期の日本映画界が最大隆盛だった頃に、とにかく誰でもいいからカメラを回して、役者を動かして映画を作れといった感じで深く検討されることもなく大量生産された映画のような感じをこの映画には受ける。出来上がった脚本をただ筋通りに撮影しているだけといった感じで余りに平々凡々、ここがいいねと思うような部分が、キラっと光るような部分が全然見受けられなかった。西田敏行などの役者の演技に助けられているという感じでもある。

●もう歳をとって、この先長くないから映画を撮ってみたい、映画監督をしてみたい、そういう津川雅彦の希望を、映画会社の関係者やらが「長年邦画に貢献してきてくれた役者だから、少しは希望を叶えてあげましょう」という義理心でマキノ雅彦として映画監督をさせ、公開までやってあげているのではないかな? 残念ながら監督性という部分が作品には殆ど感じられないし、普通ならとてもじゃないけど監督なんてさせられないレベルであろう。まあそういったしがらみもあってこういう映画も出来たのであろう。

●なぜ旭山動物園がこれほどまでの人気を博するようになったのかという、自分は最初何か大手のマーケティング会社だとか、企画会社が斬新なアイディアを持ち込み、宣伝を派手におこなって、旅行会社ともタイアップして・・・なんていう良くある売上げ向上、集客向上のビジネス手法をあれこれ駆使してここまでの人気が出るようになったのだろうと思っていた。しかし、この映画にもあるけれど、旭山動物園の場合は、こつこつと小さな改善、小さな努力、小さな希望を積み上げていって、苦しかったけれどそれが徐々に徐々に効果を現していって、そしてあるときようやく実を結んで大きな花を開いたということなのだな。最近のビジネス手法、ビジネス成功話などは斬新なアイディアでポンと大成功を手にするなんて話が持て囃され、溢れているが、それとは異なるこんな地道な努力が大輪の華を咲かせるという話に、心を動かされる。ローマは一日にしてならず、千里の道も一歩から、旭山動物園の話を聞いているとそんな今の流れとは違う物事の本筋が見えてきたような気がした。

●ペンギンが空を飛ぶ・・・・この言葉に滑り台をお腹で滑って水に飛び込むペンギンの姿を想像していた。(笑)だけど、ペンギンの水槽の下を見学者がくぐり、あたかも空をペンギンが飛んでいるかのような展示施設としたということ、その映像を見たとき、ここだけはこの映画の中で非常に感動した。美しいペンギンの空飛ぶ姿であった。