『遠い空の向こうに』 October Sky (1999)

●温かく、懐かしく、とても真面目で、良心的な映画だ。

●それは監督の人柄、作品に対する思いなのだろうか、この映画には懐かしいような温かさを感じる。

●クーパーといつも一緒に居る、ロケット作りも一緒に始めた3人の仲間がとてもいい。下手なセリフを使わずとも、この4人が本当の親友で、お互いを思いやり、尊重し、助け合う姿がとても良い。打算も欺瞞もこの4人の中にはない。あるのはしっかりとした絆だろう。ロケット発射実験を行う場所まで8マイルも歩いていく姿。「スタンド・バイ・ミー」の子供たちが少し大きくなった時の姿のようにも思えた。

●あざとらしさ無く、ストーリーにちりばめられたエピソードが心を打つ。クーパーの友である3人の少年はそれぞれに悲しさを背負って生きている。炭鉱事故で親を失った悲しさ。山火事の容疑者として警察に連行されたあと、義理の父親に殴られる少年。それを力でねじ伏せて止めるクーパーの父親。「おまえの父親は俺の一番の部下だった」と語る場面。胸にぐっとくる。クエクエンの家もちいさな母子家庭だった。みんな炭鉱の町で生きながら、親を炭鉱で失い、それでもここで生きていくしかなくて決して裕福ではないくらしに耐えている。俺はこのまま炭鉱で働くよという友人。俺はこんな町には戻ってこないと叫ぶクーパー。

●脚本が秀逸だ。役者に語らせて説明するのではなく、小さなエピソードを積み重ねることによって観客に状況を理解させている技巧。

●親と子の対立。いかにも頑固堅物の父親を演じたクリス・クーパーが素晴らしい。こういった役柄を演じたらこの人はベストか。

●父親が鉱山事故で入院することとなり、否応無しに鉱山で働くことを決めるクーパー。学校を退学する手続きをとった後、信頼していたミス・ライリー先生がクーパーの呼びかけを無視して廊下を去っていく。その先生の背中にはしっかりと怒りがかんじとられる。「あなたには才能がある、あなたは何かができるはずなのにどうして?」期待をしていた生徒に裏切られたかのように怒り黙ってクーパーを無視するライリー先生の姿には、より一層人間的な魅力が演出されている。

●とにかく、この映画は細かなところが憎いくらいに巧い。

●古い名作というのは何年位前のものから分類されるだろう? 感覚的には1960年代位の映画からクラシックと呼んでもいいのではないかと思う。半世紀前だ。それ以降の新しい作品のうち、どれだけのものが50年後に名作と呼ばれるだろうか? クリント・イーストウッド監督作品はもうすでに名作と呼ばれている。約10年前に作られたこの作品は、決して人気が高いわけではなく、知名度もさほどではないのだけれど、きっと名作と呼ばれるようになるのではないだろうか。

●空を飛ぶ、空への憧れという部分を必ずテーマとして取り込んでいるジョー・ジョンストン監督の姿勢は好感が持てる。2丁拳銃や鳩よりもずっといい。

ジョー・ジョンストン :ロケッティア(1991)、ジュラシック・パーク III(2001)

●そう言えばこのDVDが始めて発売されたとき(まだCDサイズのケースだった)、タワーやHMVなどの渋谷の大きな店でしばらくDVDが品切れしていたことを思い出す。劇場では殆どヒットしなかった作品であったから、初回のプレスの枚数も非常に少なかったらしい。しかし、この映画の良さを知り、聞いていた映画ファンはDVDの発売を待っていた。そしてDVDはあっというまに売り切れになった。この話を知ったとき、CM、宣伝、芸能人戦略で興業を作っているような映画ではなくても、良い映画はきちんと映画ファンに支持されているんだと思って嬉しくなったものだ。

●OCTOBER SKY がROKET BOYのアナグラム だと聞いたときもとても驚いたものだ。

●未だ知る人は少ないマイナーな部類の作品かもしれないが、将来において名作と呼ばれる資質を確かに持っている作品。

●何度観ても、ジンと心がに染み、感動する作品。心温まる名作。