『お葬式』(1984)

・絵に密度と力がある。カット、フレーム、アップ・・・絵に重さがある。しっかり考えて作り込んでいる面白い描写、興味深い表現がある・・・しかし、それが2時間の映画の中で散発的に出てきて、あちこちに散在している。面白さが一本の流れで繋がっていない。ぶつぶつと途切れた音声のようであり、ごそっごそっと玉になった器のなかで混ざりきっていない小麦粉のようでもある。

・いいシーンやカットがあっても、それはくし刺しにされた団子のような状態であり、一本の映画としての流れになっていない。だから、面白くない。

・お葬式という、それまであまり取り上げられなかった題材を使い、それを人間のごたごたを通して詳細に描くという着眼はいいとおもうのだが・・・面白くない。

・劇場公開当時はそのジョークに皆が笑い、大ヒットしたという。しかし、観ていて全然面白くも無いし、笑えもしない。26年前の笑いの感覚と今の笑いの感覚は大きくずれているのか? 昔の映画でも面白く笑えるものはある、だがこの映画は・・・笑えない、面白くない。

伊丹十三の監督作品は過去にかなりヒットし、評価も高い。名監督、名脚本家とされる伊丹万作の息子であり、幼い頃は黒澤組のスクリプター野上照代が面倒をみたという映画文化の中で育ち、俳優から監督へと進んだ伊丹十三。数は少ないながらかって監督した作品はどれも評価が高く今でもちらほらと映画の話題にのることがある。この作品の他にも「タンポポ」「マルサの女」「あげまん」「ミンボーの女」とヒットをし名作と呼ばれている作品も多い。だが実は伊丹十三作品はこれまで全く観たことがなかった。なんとはなしに性に合わないというか、どうしても観たいというような欲求も湧かなかった。そして初めて「お葬式」を観たが、まったく面白くなかった。こんなものか、こんな映画化という気持ちだ。

・公開当時これが大ヒットし、絶賛され、当時の映画賞では、日本アカデミー賞芸術選奨新人賞を始めとして30もの賞を受賞しているという・・・それほどの映画だろうか? それほどの作品だろうか? 

・結局は自分の好みと趣向の問題に行き着くけれど、この作品が高く評価されている理由は自分の中では理解できないもの、面白くもときめくわけでもない怠惰な二時間の映像でしかなかった。

・一癖二癖ある役者の演技はなかなかだったけれど・・・菅井きんとか江戸屋猫八とか。