『グラン・ブルー/デジタル・レストア・バージョン』

●夏が来るたび観る映画だが、今回はちょうどNHKBSでデジタル・レストア・バージョンが放送ということでこれを鑑賞してみた。これまで劇場、VHS、LD、DVDと数えきれないくらい観てきた作品だが、デジタル・レストア・バージョンがどれだけの美しさになっているのかを確認。
●DVDが発売された1997年頃、DVDで鑑賞するグラン・ブルーは本当に綺麗だと感じていた。それが今では日常的にTVでハイビジョンの高画質、高精細な映像に目が慣れてしまったため、今改めてDVDを見ると、なんてノイズが多いのだろう、なんて掠れてシャープさのないがさがさの映像なのだろう。なんて褪せた色なのだろうと不満だらけ。DVDが出た当初はVHSの映像を「こんなに質が悪かったのか」と思ったものだが、今DVDを見るとなんだか昔3倍速のVHSを観たときのような画質に思えてくる。あの頃からしても映像技術は格段に向上し、映像を見る目と感覚も相当贅沢に肥えて来ている。

●今回の放送はBSプレミアム(旧BShi)での高画質、美しくデジタル・レストアされたものの放送であり、解像度、走査線の数はDVDの倍以上であるから、DVD版との画質の差は明らかだ。映像の輪郭、シャープネス、密度などは最初のモノクロシーンからDVDとは格段の違い。しかし今回気がついたのは解像度や走査線の多さだけによる画質の違いではなく、根本的な海の色、自然描写色の違いだ。

●カラーの場面が始まって直ぐ、映像のクオリティー以上に海の色のあまりの違いに気が付く。昔から何度も観てきたグランブルーの海の色はこんな色ではなかった、もっと青が強かったのではないか? これはオカシイと思いDVD版を取り出し録画したデジタル・レストア版と見比べてみた。DVDの映像は彩度、コントラストが極端に強い、強調されている、デジタル・レストア版と比べて海の青が異常にきつい。

●DVDでは異常なまでに青味が強調されコントラストが上げられているのだ。今までずっとこのDVDで観た青がグラン・ブルーの美しい海の色と思っていたわけだが、今回デジタル・レストア版を観ると、DVDはまるでパステル絵の具で色を付けたような映像だ。これはモニターや出力機器の画質調整で補正できるような色の違いではない、マスターの段階で明らかに意図的に色付けされているものだ。

●デジタル・レストアされた”グラン・ブルーの青”は明らかに今までの”グラン・ブルーの青”とは別物に変わっていた。VHSもLDもその都度、美しい思って観続けてきたが、時代が変わり、技術が進歩することによりこんなにも映像の色と質が変わるのかと驚く。さして期待もしていなかったグラン・ブルー/デジタル・レストア版はの海の色は、青さは今まで観てきたものとはまるで別の海の色なのだ。

●灼熱の太陽が照りつける海は、DVD版のような濃いブルーではなく、カラッと乾燥した薄く淡い青なのだ。真夏の浜に立てばそれは分かる。
深い海の中、夜のシーン、太陽光線が強く当たっていないシーンではその差は小さくなるが、灼熱の太陽が照りつけるような広い海を撮っている場面ではDVD版とデジタル・レストア版の色の違いがかなり顕著だ。

●劇場公開時にスクリーンで観た美しい海は記憶の中でいつも美化されている。新しい技術でどんどん美しい映像が再現されてくると、記憶の中の映像もどんどん新しく更新されていく。原音だとか原画という観念、それは追い求めきれないもの。今のデジタル時術は古いオリジナルの映像を越えて、フィルムに落とされた以上の、もっと美しく自然に近い映像を再現することすら可能になっている。良くも悪くも色は作れる。必要なのはそこに不自然さが浮かび出しているかどうかだ。今のデジタル技術はフィルムに映し撮られた映像すらも自然そのもののように塗り上げることが出来る。手間暇を大量にかければ思いの通りの修復をすることもできる。だが技術が美しさを再現させるのではない、本当に必要なのは本物の美しさを知る目だ、その目が映像を本物に近づける。

●デジタル・レストア版のグラン・ブルーは走査線数、ノイズなどの量的な変化だけではなく、”海の色”というグラン・ブルーという作品の本質に関わる部分が大きく変わっていた。変えられていた。それは、ひょっとしたら本来あるべき色、あるべき本当の姿に戻ったと言える。その意味でこのデジタル・レストアはただのレストア(修復)ではなく、映画と映像が表す本質の部分まで手を伸ばした修復がなされたと言える。以前のパステル・カラーのようなブルーは映像製作者の意図的に絵と色を強調し美しいと感じさせようとした独断的な暴走、迷走かもしれない。いい加減監督のベッソンがそこまで気にして考えていなかったのが原因かもしれないが。

《左:DVD版》            《右:BS/デジタル・レストア版》

●小さなキャプチャー画像ではDVD版の濃い青色の方が奇麗にも見えるが、ブログ用に変換された低解像度画像では大画面のような画質の差までは比較不可。大画面映像では解像度の差も明白でDVD版はかなりノイズ、チラつきがあり、ザラザラな粗い映像である。このキャプチャー画像は、あくまで”色”と”彩度”と”コントラスト”の違い、どれだけ海の色と印象が違うかの比較としてDVD版とデジタル・レストア版を並べてみた。
●DVD版は一見奇麗に見えるが、明らかに着色強調されたような海。ブルーの彩度が高く発色がいいからそれが美しい青い海と思わされていたわけだ。青が淡くなっているが、その深み、自然さはではデジタル・レストア版は海はまさしく照りつける太陽の下の海の色。

●崖に立つエンゾの向こうに広がる海の色もこれだけ違う。



●着色された鮮やかな青を美しいと感じるか、より自然に近い海の色を美しいと感じるか。このデジタル・レストア版がなければ、着色されたパステルの青を美しいとずっと信じていたことだろう。

  -------------[BD/BSデジタル]-------------[地デジ]-----------[DVD]
主流解像度-------1920*1080p----------------1440*1080i----------720*480
ビットレート------25Mbps-------------------12-17Mbps前後-------可 4-9Mbps前後
主流音声---DD,PCM等/AAC圧縮マルチ----圧縮2ch,マルチ-----ロスレス,2ch,圧縮マルチ

●昨年発売されたブルーレイはさほど評判もよくなかったし、なによりも必要のない無駄シーンが多く冗長なフランス語吹き替えのグラン・ブルー・ヴァージョンロング(長尺版/日本では完全版)であったことから購入は控えた。このBS版はなかなか気に入ったのでBDもコレクション気分で購入しようかと考え直す。たぶんもうDVD版は観ることはないだろう。
●日本で最初に公開された、グレート・ブルーがブルーレイで発売されるかハイビジョンで放送されたらなぁと思うが、無理だろうな。デジタル・レストア版を編集して気に入らないシーンをカットし、音声は違和感だらけの仏語吹替ではなくオリジナル英語版にして、グレート・ブルーに近い2時間ヴァージョンを自分で作ろうか?なんて思ったりするが、簡易編集ではカット部分のつながりで映像がもたつくのを完全には回避できないし・・・そこまで手を掛けても満足の行く自分バージョンは出来ないだろう。オリジナル英語音声で、美しい高画質で、無駄なシーンのない洗練されたバージョンであるグレート・ブルーは諦めるしかなさそうだ。
・今までのDVD版字幕とデジタル・レストア版では若干字幕の違いがあるようだ。

2011-07-20 『グラン・ブルー/デジタル・レストア・バージョン』これは別の海だ

2010-07-05 『グレート・ブルー』 数あるバージョンの中でこれがベストだ。

2010-07-06 『グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版』これは完全版ではない!

2010-07-07 『グラン・ブルー/オリジナル・バージョン』

2010-07-08 『THE BIG BLUE』思わずのけ反る程の改悪作品。

2010-07-09 『グラン・ブルーその後、夏の海、思い出』