『2001年宇宙の旅』(1968)

●『2001年宇宙の旅』は今までに何回観ただろうか? 最初にTVで観たときは全く意味が分からなかった。それでも、これはなにかもの凄い映画なんじゃないだろうか? という衝撃のようなものがあった。観たことのない映像、哲学的ストーリー。そして美しく驚くべき映像、その一つ一つに衝撃を受けた。その後ビデオでLDで2001年のリバイバル特別上映で、DVDでと繰り返しこの作品は見続けてきている。

●『スター・ウォーズ』(1977) 『未知との遭遇』(1977)の10年も前にこれだけの宇宙映像を創造したということにも驚くほかない。SF映画の金字塔とまで言われるに至ったこの作品にもうあれこれ言うことはない、言っても仕方のないくらい凄い作品なのだ。観て感じて感動すればそれでいい。受け入れられなければそれでもいい。言葉で説明し解説したいるすることが無意味に感じてしまう作品。そういう作品も存在する。

●この映画はほぼ全的に作品として、映画として、創造物として受け入れている映画だ。人間にたとえるなら親炙してしまっているとも言えるだろう。それは、何度か繰り返し観た末に辿り着いた気持ちだ。最初からそんなふうに思っていたわけでは無い。しかし、もし少しでもこの映画が気になってしまって、もう一度観てみようと思った人ならば、さらに繰り返し映画を観続け、いつかは何も言わずただ受け入れてしまいたくなるような気持ちに辿り着く。そういう人、映画ファンは少なくないのではないだろうか?

●「2001年宇宙の旅」は何度かBS-hiで放映されていたのだが、どうもこれまでは観ようという気持ちになれなかった。この映画は自分にとって特別な作品になっていたし、たっぷりと時間があるときに、心を落ち着けて、余計な諸事に邪魔されず真正面に向き合ってじっくりと観なければいけない映画と思っていたからだ。

●前回に観てからかなり時間が経っているということもあって、今回初めてBS-hiで放送される「2001年宇宙の旅」を観てみた。デジタル・ハイビジョンに対応してリマスターされたという映像がどれほど美しくなっているものか確かめてみたいという思いもあった。そして観た映像に、又しても心底から驚いた。

「1968年の映像ここまで美しくなるものなのか・・・・」としばし唖然とした。

●美しい、本当に映像が美しい。もともとこの映画の映像の美しさは頭にインプットされているのだが、そんなものを遥かに通り越して溜め息が漏れるほどに絵が美しいのだ。これには正直かなり驚いた。

●フィルムには走査線という物理的な制限、限界がなかったわけだからデジタル化には理論的に上限は無いとも言えるらしいが、それでも半世紀ちかく前の映像がここまで美しくなるものなのかと、ただただ驚くばかりだった。今回BS-hiで観た「2001年宇宙の旅」は今まで観てきた「2001年宇宙の旅」とはまるで別物のようであり、今迄とこれからで自分の中にある「2001年宇宙の旅」は二つに分けられてしまった。

●自分は古い作品のブルーレイ化にはさして期待も興味も持っていなかった。数十年も前のフィルム作品がいかにデジタルでリストアされようとも、撮影時のオリジナル映像とその撮影クオリティが低ければブルーレイにしようがハイビジョンにしようがどうにもなるまいと思っていた。いかに当時としてクオリティーの高い映像、撮影技術が使われ保存状態もよいフィルムであったとしてもデジタル・リストアにも限界はあろうと考えていた。DVDの登場によって沢山の作品がデジタル・リストアされたが、主にそれはノイズを除去したり、明度、彩度、コントラストの調整したり、音声を聞き取りやすくクリアにしたりということであり、アナログ・フィルムをデジタルに置き換えることにより、デジタルとしての長所を際立たせるものであり、元々のアナログ・フィルムを向上させる訳ではないのだと考えていた。いくつか鑑賞したブルーレイ版の古い映画も「ブルーレイにしてもこんなものか? やはり古い作品はデジタル技術が上がっても映像そのものは変えられないのだ。古い映像は古い映像のままなのだな」と感じていた。しかし、そんな思いは今回ものの見事に打ち砕かれた。

●ブルーレイに懐疑的であった訳は他にもある。それはこれまで観てきたBDソフトの画像にもよるのだが、つい先日、7/17から6夜連続でNHK BShiで行われた「スター・ウォーズ」全作一挙放送を観たことにもよる。このとき放映されたスター・ウォーズは最新のHDマスターを使用し、5.1chサラウンドで完全放送と謳っていたこともあり、どれだけ今迄の映像と違うのかと期待して鑑賞したのだが、これはがっかりするほどの期待外れだった。

●元々スター・ウォーズ・シリーズはDVDでも非常に高画質であり、家庭環境で視聴するにはもう充分過ぎるほどクオリティーの高い美しい映像であった。スター・ウォーズのDVDを観る度に「DVDでここまで美しいのだから、BDにしても果たしてどれだけ画質が向上するのだろう? もうスター・ウォーズの画質は充分過ぎるほど高画質に行き着いているのではないか」と感じていた。そのスター・ウォーズが最新のHDマスターで放送されるということでハードディスクにも録画し大いなる期待を持って画面を見つめたのだが、その画質は充分に美しく奇麗なのだがDVDで鑑賞した画質となんら変わりないものであった。

●このスター・ウォーズの放送を観てかなりがっかりし「やはりハイビジョンにしたとしてもBDにしたとしても高画質のDVD作品はそれ以上映像クオリティーが上がるものでもないな」と確信し、DVDのコレクションは山のようにあるし、敢えてこれをBDに買い替えていく必要はないだろうと自分で再確認した。

◎あちこちサイトで映像技術に詳しい方やマニアの人が同じようにこのスター・ウォーズの画質がハイビジョンのくせに良くないということを書いている。この放送では本来の最高画質であるフルHD解像度の1920×1080ではなく1440×1080で放送されていたらしく、ビットレートも地デジでも放送できるレベルまで下げられていたということだ。人によっては近々発売されるであろうスター・ウォーズのブルーレイが売れなくなるからルーカス・フィルムが最高画質でスター・ウォーズを電波に乗せることを営業的観点から断り、敢えて画質を落として放映させたのだと推測する人もいるようだ。
参考サイト:
http://ctec3.blog.so-net.ne.jp/2010-07-20
http://tanich0619.blog3.fc2.com/blog-entry-260.html
http://blog.goo.ne.jp/column0513/e/597cb90f9f0937115e475df8c3fa1068
http://read2ch.com/r/livenhk/1279365483/

●このスター・ウォーズのDVDとさして変わらない放送を観た後であったから「2001年宇宙の旅」の画質には微塵も期待していなかった。そんな気持ちで観たこともあり今回の「2001年宇宙の旅」余りの映像の美しさには頭をガンと殴られるほどの衝撃を受けた。ここまで美しいのか、ここまで美しくなるのかと。映画の映像の美しさに驚くという体験は久しくしていなかったのだが、もうこの2001年宇宙の旅は文句のつけ所のないほどの美しさなのだ。

●数年ぶりに観たこの作品はまた新しい驚きを自分に与えてくれた。この映画をここまで美しくリストアした人には心から感謝と称賛を送りたい。

●古い映画作品をBD化することで映像がどれほど美しくなるかということには甚だ懐疑的であったが、今回「2001年宇宙の旅」を観たことによりその可能性の大きさを改めて認識した。もちろんオリジナル・フィルムの撮影クオリティーが悪いものはいくらBDにしようがリストアしようがどうにもならないだろうが、昔の監督がカメラマンが精根を傾けて撮影した美しい映画は半世紀以上経た今でもそしてこれからでも過去以上に輝き続けることが出来るのだ。これは技術と情熱の素晴らしさだ。

●「2001年宇宙の旅」は過去に発売されたDVDはそのバージョンが変わる度に購入していた。MGM版(今となってはちょと貴重か)、海外版、ワーナー版、そして2001年に発売されたデジタル・リマスター版とDVDラックにはたくさんの「2001年宇宙の旅」が並んでいる。今回ハイビジョンのあまりに美しい映像を鑑賞した後で「昔観た時もこの映画はとても美しかった。2001年のリバイバル公開を劇場で観たときもやはり美しいと感じた。

●2001年に発売されたデジタル・リマスター版DVDはリバイバル公開を劇場で観ていたこともありパッケージも破かずラックに入っていたのだが、取り出してプレーヤーにかけてみた。そして三度驚いた。こんなにも映像が荒く、ノイズが多く、古くさい映像だったのかと。デジタル時代の主役とも言えるDVDで、デジタル・リマスターと銘打ちノイズを除去し、クリアネスを上げ最新の美しい映像に仕上げた”はず”のDVDの映像がこんなに汚かったのかと。それはハイビジョン映像を観た後とは言え、余りの映像の質の違いに愕然とするほどであった。

●ずっと自分はこんなに汚い映像の「2001年宇宙の旅」を見続けていたのか、それを美しいと記憶していたのかと自分自身に唖然とするほどだった。

●VHSからDVDにメディアが変わったとき、なんて映像が美しいのだろうと思ったものだが、その美しいと思っていた映像がこんなものだったとは。いや、通常のDVDはもっと美しい。デジタル・リマスターと言いながらこの「2001年宇宙の旅」のDVDはしっかりとしたリストアなんてされていなかったのではなかろうか? 単純にフィルムをデジタルに置き換え、多少コントラストや色合いを調整しただけでデジタル・リマスターなどと言って売っていたのだろう。その位このDVDの映像はよくない。

●かって美しいと思っていたものに対する自分の概念が根底からすっかり打ち砕かれた。しかしそれは良い事なのだろう。今回ハイビジョンを観たおかげで「2001年宇宙の旅」の素晴らしい美しさを知ることができたのだから。

●これから発売されるBDソフトもこれだけの美しさでリストアされ蘇ってくれるなら買い替える価値もあると思うが、それはフォーマットを変え走査線の数を上げただけで得られるものではなし。古いフィルムをいかに美しく蘇らせるかということに担当者、スタッフ、企業がどれだけ力を手間暇をコストを傾けるかによる。そういう意味ではこのハイビジョン版「2001年宇宙の旅」はBDソフトの試金石でありマスターピースとも言えるものであろう。

●黒澤作品にしてもBDになったのにDVDとさして変わりないと言われているものもある。多くの作品が「2001年宇宙の旅」と同じくらいの美しさで蘇ってくれること、携わるスタジオやスタッフが最大の労力と手間をかけてくれることを期待するしかないのだが。

スター・ウォーズのブルーレイ版がどれだけの美しさになるか、次の試金石はそこにある。果たしてどうなるか?

・-------------------[BD/BSデジタル]----------------[地デジ]----------------[DVD]

主流解像----------1920*1080p----------------1440*1080i-------------720*480

ビットレート-------25Mbps--------------------12-17Mbps前後-------------可変 4-9Mbps前後

主流音声----------DD,PCM等/AAC圧縮マルチ------圧縮2ch,マルチ--------ロスレス,2ch,圧縮マルチ

☆過去に発売されたディスク・パッケージに関する詳細ページ
SF映画の金字塔! 2001年 LD/DVDの旅』http://www.ld-dvd.2-d.jp/gallery2/hikaku2001.html