『天国の日々(Day of Heaven)』(1978)

●画面に映し出される絵が文句なしに美しい。心がほっとするような穏やかになるような映像。

●動物の描写、麦畑、雲、空、霧、自然描写の確かさ。マジックアワーの光線美。流石はテレンス・マリックだと言うべき映像美。

●穏やかな音楽

●あざとらしい演出がない。

●ライト・スタッフで最高のヒーローだったサム・シェパードの情けない男役は少し侘びしい。

●かなり以前の話だが。『シン・レッドライン』を観てその美しさ、映画表現の素晴らしさに感動した後、テレンス・マリック監督の少ない過去作を観てみたいと思った。だが日本ではまだこの映画も『バッドランド』もDVD化されていなかった。アメリカからR1のDVDを取り寄せて観たが、その時の映像はかすれていてあまり奇麗ではなかった。

●今回のNHKの放送はハイビジョンではないけれど、DVDよりもずっと美しい。通常の地デジ放送でもDVD以上の美しさを感じることができる。1998年頃のDVD発売当初、VHSに比較してDVDあまりの美しさに驚いたものだが、それが更に10年以上経ち、地デジ、ブルーレイとより美しい映像が出てくると「DVDってさして奇麗じゃなかったんだな」なんて思ってしまう。技術の進歩、時代の流れはやはり凄い。

アメリカではクライテリオン版のブルーレイが発売されているという。それはどれだけ美しいのだろう? 日本で発売されるのを待つか。だがこのマイナーな作品がブルーレイ化されるかどうかはまだわからない。待っている間にNHKがハイビジョン放送してくれたらそれは嬉しいだろうけれど。

テレンス・マリックの映画にいはなにか心を慰められるような温かさ、優しさを感じる。エマソンホイットマン、ソローといったアメリカの開拓者精神と夢を語った哲学者、文豪たちと同じ匂い、肌触りといってもいいだろう。

●淡々としたストーリーながらも、監督がフィルムに写し撮った美しい自然、その中で生きる人の姿を観ているだけで心が温かくなってくる。斜陽の光があたる麦畑で刈り取りをする映像は本当に美しい。まさに人々が天国で暮らす日々のようだ。

●こうなると人間の欺きだとか、嫉妬、欲望なんていうドラマ部分は入れなくてもいいんじゃないかとさえ思ってしまうのだが、豊饒な大地という天国のような場所で生活する人々の美しい日々の中に、それとは相容れない人間の醜さ、悲しさ。それこそがテレンス・マリックが描こうとしたこの映画のテーマなのだろう。

●強く押し付けるわけでも、主張するわけでもなく、静かに柔らかく優しく問いかけてくる、これは文学的な名作と言える。

●この作品はきっと、この先もあざとい演出やわざとらしい表現がどろどろに煮込まれたような映画ばかり観て、映画にうんざりしてきたときに、再び手にして観る1作だろう。


リチャード・ギア:ビル
ブルック・アダムス:アビー
リンダ・マンズ:リンダ
サム・シェパード:チャック