『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』(2010)

●これはとても素直で純粋な女子高生の青春ドラマ。佳作ながらも観た人の心にきっと爽やかな感動を残す作品だろう。そしてそれはずっと残り続けるだろう。高校の学園祭だとか、男子でも女子でも必ず通る、経験する素敵な輝く瞬間。その輝き、そのほろ苦さ、甘酸っぱさがきっちり画面に折り込まれている。下手な恋愛話を絡めてないのもいい。

●女子高生の個性、性格の設定がものすごく真面目。ふわふわだらだら適当に学生生活を送っているのではなく、この年頃によくある《なにかをしたい、なにかを成し遂げたい、目標を持ちたい、自分を表現したい。学校や社会の繋がりのなかで自分の存在を確かめたい》といった悩みや不満、いらだちが書道部の女の子たちの姿にしっかり浮かび上がっている。都会の学校で受験勉にいつも追いまくられている女子高生でもなく、毎日街を友達と遊び歩くことで今の楽しさに全てを委ね埋没してしまっている女子高生でもなく、まだ17年しか生きていなくて、どうしよう、どうしたらいいんだろうと毎日悩み悶え考え苦しんでいる、まだ世の中のことなんて何も分からず、分からないから夢も描ける、でもその夢を叶えるにはどうしたらいいんだろうと逡巡し、頭のなかで悩みだけが堂々めぐりしている女子高生の姿。この作品に出てくる書道部の女子高生を見ていると、実際の高校生って、ほんとにこんな感じだよな、だったよなって思えてくる。

●実際の舞台であった三島高校書道部の部員たちも、こんな感じだったのんじゃないかな。妙に脚色、演出していない女子高生達の素朴で、真面目で真剣な顔、目、姿、考え方、生き方がこの世代のありのままを映し出しているようで好感が持てる。

●各校の書道パフォーマンスのシーンが素敵だ、高校生の活きの良さがなんの遠慮会釈もなくそのまま勢い良く弾け飛んでいるかのようだ。実際の書道パフォーマンス甲子園に出場した書道ガールズをそのまま使っているから、演技、演出臭さがなくて、ありのままの高校生の若さと元気が恥ずかしくなるほどの勢い。このシーンは見応え充分、満点。

●再生・・・か、311の震災で沈んだ今の日本にはこの言葉が必要なんだろうな。

成海璃子は相変わらず演技が上手い。目の力、表情に力があって、だけど驚くほど自然。吉永小百合的。池澤先生を演じる金子ノブアキもイイ感じ。

●あんまり話を捏ね回していなくて、嫌らしい演出もほとんど無くて、これは珍しく本当に真面目な青春映画。見終わったら爽やかな気持ちになり、心の中を涼しい夏風が吹き抜けるような映画。なかなかイイ。

☆これがほぼ実話だというのもほんとうに驚き。
日本一の紙の町・愛媛県四国中央市にある愛媛県立三島高等学校書道部の部員が町を盛り上げようと、地元ショッピングセンターなどで書道パフォーマンスを始めた。地元テレビ局の南海放送の密着取材がNNNドキュメント』で取り上げられ、やがて日本テレビズームイン!!SUPERで中継され、徐々に知名度を上げていく。2008年7月、地元の祭り「四国中央紙まつり」で第1回書道パフォーマンス甲子園開催。その模様が『ズームイン!!SUPER』で放送され大反響を呼び、一躍全国に知れ渡ることになる。この実話を基にこの作品が作られることとなった。from wiki

http://wwws.warnerbros.co.jp/shodo-girls/index01.html

http://www.vis-a-vis.co.jp/screen/e-hanashi/post_288.php

http://www.wel-shikoku.gr.jp/welcome/shikoku/look/shodo-girls/

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●象徴的なまでに画面の背景に配置されている何本もの大きな煙突、もくもくと空に上っていく白い煙。沿岸部には大手製紙会社の工場、本社がいくつも並び少なからぬ雇用や所得といった利を地方都市にもたらしているだろう。だが、少し離れた場所にスーパーや量販店を中心とした新しい商業施設が出来上がり、昔からの古い商店街と個人商店は客が離れ商売が成り立たず廃れて行く。同じ構造は日本全国に広がっている。

●紙の町といわれるこの町で、これだけの製紙工場が並べば工場廃水もの大量であろうし、煙突からも、もくもくと大量の排煙が空に吹き上げていれば、いくら環境基準の排出規制があったとしても、公害とは全く無縁ではないはず。空気や匂いといったものも他所から訪れた者にしたら驚く状況かもしれない。大手製紙会社の工場があるから暮らしは豊かになったけれど、それと引き換えに地元が差し出したものも少なくはないはず。いうなればこれは今の福島原発と全く同じ構造。

●高校生たちの書道パフォーマンス甲子園という明るく、元気な話題の直ぐそばには、この映画が映し出す爽やかさとはまるで別の大きな問題が横たわっている。

●何度も何度も映し出される巨大な煙突と、そこから吐き出される白い煙には、こんなに明るく爽やかな高校生達の生きているその場所には、外部の人間が”書道パフォーマンス甲子園”って素晴らしいと思う前に、考えなければならない問題があるのだと気付かされる。メディアに持ち上げられたこの明るい話題は、ひょっとしたら強欲資本主義の亡者が公害への批判の目をそらす為に仕組んだものかも、そんな勘ぐりも出来なくも無い。311以降の東電の原発事故などで強欲な企業の隠ぺい体質と世論操作の実態が随分と表に出てきて衆目に晒されているのだから。