『チャイナ・シンドローム』(1979)

・これももう30年も前の作品になるのか。

福島原発の事故があって、たぶんこの作品をDVD等で観た人は日本でもかなり増えているだろう。

・昔これを観た時には他所の出来事、他人事のように受け取っていて、原発事故の切羽詰まった危機感なんてところまで思いは辿り着かなかったのだが、今まさに福島の事故とその状況が毎日のようにネットやTV、新聞で伝えられている状況にいると、この映画が30年前に描いていた恐ろしさがようやくもって身近なことに感じられる。人は同じ状況を体験しなければ、同じ状況に陥らなければ、決して当事者の思いを共有することは出来ないとも言われる。確かに、今原発事故が起きて日本中が当事者になったからこそ、より一層この映画が描いている恐怖や危機がが身にしみて感じられる。

・30年も前の作品なのに、ここで描かれている事故、事件、それをもみ消そうとする電力会社、なぜか311以降TVで毎日見ている原発事故と東電の様子とほとんど同じだ。30年前も今も原発に関わる状況は何も変わっていないのではないかとさえ思えてくる。

・画像は古く、年代を感じさせるが、見続けているとこの作品の中出描かれていることが、今起こっていることなのではという気持ちにさえなってくる。311で生じた原発事故、その映像はまさに30年前に「チャイナ・シンドローム」が描いていた映像そのものなのだから。

・最近はこういった社会的な告発映画は本当に少なくなった。映画にはその大衆性と人気の高さから、社会や政治に警笛を鳴らし、それが良からぬ方向へ進みそうなときにそれを制御する力があった。だがそれは今の強欲資本主義の元では消えかかっている。

・30年前は映画界が、映画人が、文化人が映画というメディアを通して社会批判、企業、政治を告発することができた時代。

・人間の命よりも金、利益を優先させる強欲な資本主義、それがしみ込んだ電力会社。結局、人間の作った会社、組織、政治、国家、体制なんてものは必ず金と権力を求め、貪り、堕落する。それは30年前も今も何も変わっていない、いや30年前どころかずっと昔から、そして今までずっと、それは変わっていないどころか更に悪化している。この映画を観ているとそんなことを痛切に感じる。

・311の地震津波による原発事故で、日本には放射能被爆を受けた3つ目の名称が世界中に、未来永劫の歴史に刻まれてしまった。HIROSIMA, NAGASAKI,そしてFUKUSHIMA。

・警笛は常に鳴らされていたのに、誰もそれに耳を傾けようとしなかった。2011年、多くの人がレンタル店やDVD購入などでこの映画を観ている。30年経って再びこの映画が訴え、告発していたことが日の目を浴びている。それは良いことなのだけれど、遅すぎたことでもある。

・人間は失敗してからでなければ間違いの重大さに気がつくことは絶対にあり得ない。

原発問題を扱った重要な一作として多くの人がこの映画を観て、ほんの少しでも何かを考える、それだけでもいい、それが続いていってくれることを願うしかない。

ジャック・レモンの名演には感服。ジャック・レモンの役はいわば福島原発の吉田所長か?
・社会派として活動するジェーン・フォンダ生粋の作品。
・製作も兼ねたマイケル・ダグラスも見事。
原発職員のスピンドラーを演じているウィルフォード・ブリムリーがいい味を出している。この人はいつも脇役だが主役に勝るとも劣らぬ名演を魅せつけてくれる。


○1979年3月16日北米公開12日後の、1979年3月28日ペンシルベニア州スリーマイル島原子力発電所で事故、この事故もあり映画は大ヒットを記録することとなり、日本公開時は少年漫画誌にもスリーマイル島の事故と重ねてこの映画を漫画化したものが掲載されていた。