『折り梅』(2002)

●年をとった親の介護、それは多くの人にとって切実な問題。ずっと元気でいてくれたらいいけれど、いつ体がわるくなり寝たきりになるか、認知症が発症して常に見ていなければならない状態になるか。それは確かにどんな家にも突然に起こりうる問題。

●その時どうしたらいいか、それはきっとそうならなければ考えないことだろうし、そうなったときにあわてて考えるというのが大方の行動、自分もそうかも知れない。しかしこういう映画を観ると言う事は少なからぬ心構えをするきっかけになる。

●この映画が地方の市民会館や公民館のような場所で長く公開を続け多くの人が観にきているというのも、いつか自分もこういった状況になるかも知れないという意識を持つ人と、実際に介護をしているような人が沢山いるということなのだろう。

●映画としてどうこうというものはない。吉行和子認知症になった母の演技は見事、真に迫る。トミーズ雅の演技はダメ。だが下手くそな演技があるから息苦しくなる話が少し楽になる効果はある。

●『折り梅』というタイトルは美しいが、作品本筋との繋がりが弱い。「梅は枝を折って活けても、皮から養分を吸って咲き続けるから<折り梅>と言うんだよ」という言葉は良くも悪くも捉えられてしまう。

●かなり難しく、厳しい問題をテーマとして扱っているので、最初に観たときは、所々に挟まれる笑いの演出が邪魔というか要らないと思っていたが、前部全部が認知症の介護とその苦労話ではあまりに重くなり、息が詰まってしまうかもしれない。『おくりびと』もそうだが、重いテーマを扱うから笑いやジョークは不謹慎だとか、要らないというよりもある程度は柔らかさや面白さも加えない事には観る人も滅入ってしまう。

●本当に介護をしていて苦労している人がこの映画を観てどう感じるか? 少なくともこれは後ろ向きな映画ではなく、母と娘がなんとか前に向かって歩いて行こうとしている映画なのだから、希望は繋がっている。

●これは一般的な映画というよりも、認知症や介護という現実を沢山の人に知ってもらう啓蒙映画、教育映画というべき作品といえるだろう。

アルツハイマー認知症、痴呆症という言い方は何年か前から蔑視的ということで使わないようになってきているらしい。

●NHKBSで『恍惚の人』が6月に放送されるという。認知症を扱った作品で未見だからこれも観てみようと思う。

映画『折り梅』公式サイト:http://www.oriume.com/
監督:松井久子