『築地魚河岸三代目』(2008)

●ほとんど全く期待せず観たが、寅さんとか、釣りバカ日記と同じで、これはあんまりあれこれ考えずさらっと観てそこそこに楽しめる。映画の批判のよくあるパターンとして「こんな映画はTVの2時間ドラマのレベルだ」とかいうのがあるが、この手の作品はそれでいいし、逆に言えば2時間TVドラマよりちょっと予算も撮影規模も大きくして映画館でも掛けられる位にしたと考えてもいい。あまりにもTVドラマ然としたものを劇場で観たらがっかりするが、松竹の作るこういったファミリー路線物はTVドラマと映画の中間にある位の位置づけで観ていればいいのだろう。

●築地魚河岸の物語となれば美味い魚のこととか、料理のこととかがもっと出てくるのではと思っていたがそうでもない。魚のウンチクなどがたくさん出てくるのかと思ったらそうでもない。じゃあこの映画はなんなのというと、とどのつまり明日香(田中麗奈)と赤木(大沢たかお)、千秋(森口瑤子)と英二(伊原剛志)の二組の恋愛とドタバタということに落ち着く。舞台を築地に置いているだけで、単純なよくある、使い古された、なんでもない恋愛映画。舞台を変えればどこを使ってもみんな同じ話しでいくつでも作品は作れる。なんの目新しさも、奇抜さもない有り触れた話。それがこの作品の持ち味ということになる。それこそ寅さん、水戸黄門、寄席、落語、この映画もその部類に入るだろう。

●余命少ない順子(森下愛子)がアカムツの煮付けを食べるシーンがあるが、順子が煮付けを食べる姿に「おいしぃ」というイメージが全然無い。料理をクローズアップするわけでもなく、箸で丁寧に身をほぐしてつまむわけでもなく、美味しそうに口に煮付けが運ばれるわけでもなく、食べるシーンを真っ正面から引いて撮って、順子に「おいしぃ」と言わせているだけ。これではこのシーンを見ていて美味しそうだなとも思えないし、唾が無意識に出てくることもない。もう少し料理も魚も観ている側に美味しそうと思わせ、感じさせる演出、撮り方というものがあるだろう。(監督:松原信吾)

●本来であれば明日香(田中麗奈)がヒロインという設定なのだろうが、作中の役柄として明日香にヒロイン的な輝きは与えられていない。最後に『卒業』パターンの式前どんでん返しをする千秋のほうがストーリーの中では華がある。ヒロインとして設定した役柄にストーリーの中で一番の華を与えず、脇役にその役を演じさせる。これは脚本として大々的な失敗、というかやってはいけない大間違いである。

●特に感動するわけでもないし、大笑いするわけでもないし、なんでもない平々淡々としたこの映画は、やっぱりTVで見る位でちょうどいいか。