『イングロリアス・バスターズ』

ナチス・ドイツヒトラーをコケにし、茶化し、馬鹿にし、殴り、やっつけ殺す話なら誰からも文句を付けられない。世界中から悪の完全な見本と見做されているからだ。だからナチス・ドイツヒトラーをやっつける話というのは完全な安全牌。バッドで殴り続けて撲殺しようがマシンガンで蜂の巣にしようが許容される。クレームは来ない。世の中の殆どから悪の象徴のように思われているからだ。残忍な悪魔を殺したって誰も文句は言わない。人道的非難などしない。人権団体も歴史団体も文句など付けてこない。

●桃太郎が鬼退治するようなものだからだ。

●流石タランティーノなのだが、これは実は安全圏から安全牌を使い、今までのパターンに乗っかり冒険も危険も侵さずに作っている映画だ。

●男優も女優も一癖も二癖もある面々が集められているので、その演技を観ているだけでも実に面白い。さらっとした演技をしている役者は一人もおらず、全員の演技に特異な癖があり、いがらっぽさがあり、観ていると咽や目や耳や鼻のあちこちにがしがしと引っ掛かってくる。その煩わしさが快感でもある。

タランティーノなら今更ナチス・ドイツヒトラーなんていう安全な攻撃対象をチャカし、ぶっ殺す映画ではなく、ブッシュや、その周りに居た閣僚や有象無象の守銭奴政治家、企業役員なんかをぶっ潰すバスターズの映画でも撮れよと言いたくなる。ムーアよりも強烈なチャカしと皮肉で。

●きっちり、かっちりまとまっているが、いつものパターンだとも言える。スキのないぎっしりと煮詰められた映像、映画、ストーリーだがこれまでのタランティーノのような新しい驚きがあるというわけではない。完全にタランティーノの様式、形式の範囲内で再生産された映画。それはワンパターン化だとも言える。

●爽やかさがあるわけではない。結局、どんなに酷い殺し方をしたって文句が言われない悪役を用意して、それを殺しましたというだけの映画だ。

●炎に包まれて燃え上がるスクリーンはイイ。「アメリカンウェイ」や他でもこのシーンはあったか?

●ジュリー・ドレファスは『キル・ビル』に続いて今回も随分と激しい殺され方だ。腕を切られて血を吹き出す姿から、今回は機関銃で身体中を撃ちまくられて死ぬとは・・・・