『風が強く吹いている(2009)』
・真面目な映画だ。骨太、質実剛健の脚本家である大森寿美夫が脚本だけでなく監督兼ねている。大森寿美夫は今の邦画界で真に実力、能力、のある脚本家だと思っているが、その大森寿美夫がしっかりとした目で映画を撮っている、作っている。映画そのものもブレがまったくなく、映画のお手本のような質実剛健な作り。こういう映画を学校とかでたくさんみせるべきだ。実にいいね。もう大森寿美夫の真面目さ実直さがそのまま出ているような映画だ。
・三浦しおんの原作だったのね。
・小出恵介、林遣都の走っている姿は、トレーナーがしっかり教育したのだろうが本当にうつくしい。キャスティングも悪くない、いや文句なしだ。監督役の津川雅彦はイマイチだけど。この役だけはもうすこしなんとかならなかったのかなと思う。ギャグにも引き締めにもなってないし邪魔なかんじだ。
走るという単純で苦しいことをしている人にあれこれ文句をつける人はいない(少しはいるかも知れないが)
・正月に相模湾沿いの国道134号が規制されて箱根方面に素直に車で走れないのは苛立たしくも思っているのだけれど、箱根駅伝ならしかたないと素直に諦めて規制も認めてしまうところがある。人間の根源的な所につながる走る行為には、周りで観ている人間に文句を言わせない威厳がある。立ち止まって観ている人間よりも明らかに、そして確実に自分よりも凄いことを、素晴らしいことを、間違っていないことをしているという原初的な気持ちがあるんだろうな。
・林遣都はいい役を手にしたな。そしていい演技をした、爽やかで美しくて熱のある演技だ。まだまだ若いが、林遣都の代表作になるんじゃないだろうか。
・夕焼けの土手を走る映像も美しい。
・これは後々まで残り、感動を生み、語り継がれていく映画になるだろう。きっと作品の評価は年を経るごとに高まっていくんじゃないだろうか。
・迷走し、低迷し、ぐちゃぐちゃ、ぐだぐだになって守銭奴と映画ゴロの澱みのようになって汚れ荒んでしまっている邦画界の中で、信じられないほど純白で、真っ直ぐで、爽やかで、流れにもまれず、汚れた澱みに取り込まれず、真っ直ぐに流れている石清水のような清冽で透明な映画。
・いいね。