『キャプテン・アブ・ライード』(2007)

●小さい子供は電車や飛行機といった乗り物が好きだ。子供に「将来は何になりたい?」とお決まりの質問をすると、野球選手やサッカー選手になりたいっていう子供と同じ位に電車の車掌さんや飛行機乗りになりたいっていう子が多かったのではないだろうか? 大きな乗り物を操つる人は偉い人、凄い人、子供の無垢な心は素直にそう感じるのかもしれない、そういう存在に憧れを抱くのかもしれない。

●空港の清掃係りをしているアブ・ライードが偶然ゴミ箱に捨てられていた機長帽を拾う。(機長が帽子をゴミ箱に捨てるというのは状況設定として無理があるが)その帽子を被って帰宅した姿を見た子供が、憧れのパイロットから色々な国の話を聞きたくて仲間を連れて家に押し掛ける。最初は拒否していたアブ・ライードだが子供たちの広場に自ら出向き話を始める。なかなかいい感じだ。いかにも中東、砂漠の中の街アンマンの夕焼けもエキゾチックで美しい。乾いた空気の中に穏やかな静けさが漂っている。これはとてもファンタジックな夢物語が展開するのかと期待感が高まる。が・・・

●そういったファンタジックな映画ではなかった。少年たちは貧困街に住み、学校にも通わせてもらえず、菓子を路上で売って金を稼いでこいと言われている。アブ・ライードの隣の家では家庭内暴力で夫が妻を毎晩怒鳴っている。子供たちは脅えて子供部屋に隠れている。

●最初に見たアンマンの美しい街並み、夕焼けの美しさの下では貧困国、いや先進国でも起きているものと全く同じ社会の歪みが横たわっている。そしてその行き着く先は・・・。

●あまりに予想外の展開に驚いた。まさかこんな結末を迎えるとは。ご都合主義的な話、設定、演出もかなり目に付くが、こじんまりとストーリーは上手くまとまっている。ただ、こういう話はやはり好きではない。

●ヨルダンが数十年ぶりに海外で公開した映画ということだが、ストーリー展開はどこかの映画から持ってきたような類似感が強い。それでも上手にまとまった一作を輩出した努力は讚えたい。(なんらかの資金力がバックになければ無理だろうが)が、アブ・ライードが機長の帽子を拾い子供たちに機長として慕われるというアイディアは光るものの、その後の展開はあれこれの映画のコピー、寄せ集めといった感じだ。その上でこの暗い結末。

●機長の帽子を拾うという光るアイディアを、もっと明るく、希望のある話に繋げて欲しかった。

NHKアジア・フィルム・フェスティバル参加作
【監督・脚本】アミン・マタルカ/ヨルダン/103分
【キャスト】ナディム・サワルハ、ラナ・スルターン、フセイン・アッソース、ガンディー・サーベル