『楢山節考』(1983)

●1958年木下恵介版『楢山節考』は劇中劇という作りであったが、今村昌平版は重厚な実写映画。

●1983年カンヌ映画祭グランプリ受賞作

●野太く、力強い人物描写、演出、映像。

●所々に挿入される蛇の映像も印象的。その他の動物描写の挿入も非常に芸術的であり印象的。

●古い時代の日本の山村というより、ここまで土くれだって、土にしがみ付いて生きているような映像だと、まるで原始時代の人間のようでもある。

●村社会のしきたりを破った家、家族への罰が強烈。家族もろとも土に埋め、その家系を根絶やしにししまうとは、姥捨てと同じくらいに衝撃的。

●今村流のテクニックでこんな内容の作品であるのに、暗さは少なく、ある種の明るささえもある。

●家畜との性交やら、除け者に女を教えるためお婆と性交させるなど、壮絶。

●さらには倍賞美恵子との性交シーンもかなり以上に嫌らしい。だが、明るい。

●絵から圧力を感じる、絵が非常に重い。

●木下版のカラスの扱いも凄かったが、今村版もカラスの扱いとその映像が強烈。

●3年掛かりで標高1000mの廃村で撮影されたというが、やはり今の時代とは映画の作り方が全く違うなぁと感心する。
●姥を背負い山を登る息子、足の爪が剥がれる描写、父親を網縄でがんじがらめにし、助けを求めを聞き入れず谷に突き落とす息子・・・壮絶だ。

今村昌平は相変わらずの日本一のスケベオヤジ監督ぶり。今村作品を観る度に思うが本当にこの監督はドスケベのエロオヤジだ。だがそれを極めて真面目に真剣にやっている。人間の性やエロに対する今村昌平のまなざしはドスケベだが、そこに人間の強欲と真理を見出そうとしている。スケベだが毎回感心するばかり。

坂本スミ子田中絹代に負けじと前歯を折ってこの役に取り組んだという。20代以上も老けた姥の演技は凄い。
(カンヌのグランプリから帰ってきたら麻薬だなんだと騒がれて、全然栄光の凱旋じゃなかったというのは今回初めて知った)

●巷で見たことのあるこの映画のポスターやソフトのジャケットは、全部が土汚れた肉感的な女に覆いかぶさる汚れた男(緒方拳)の写真が使われていたので、このシーンが映画の中でも重要な部分かと思っていたが、なんでもないワンシーンでしかなかった。映画本編を代弁することのないポスターやジャケット。それはただ単に男女のセックスシーンや裸で感傷意欲、購買意欲を煽ろうとしたもの、いつの世でもこの点の作為は変わりないが、こういうあざとらしく重要度の少ない部分をつかったアートワークは下衆である。