『ラスト、コーション』

●「一般映画でここまで映していいのかというほどの濃厚なベッドシーン」なんて言葉ばかりで注目を集めていた作品。どこもかしこもこの作品を語っているのはエロの部分ばかりだ。で、自分ももちろんそこに興味があって観たわけではあるが、数十億と言われる予算を掛けて作られた映画がベッドシーンの話題ばかりで語られていて、それが男と女の情愛を表現しているなんてレビューばっかりだから「それってなんだ? 数十億かけてAVみたいな映画作ったのだろうか? セックスシーンばかりに話題が集中しているような映画にろくなものない」というこれまでの定石を確かめてみようかという気もあった。監督も前作でアカデミー賞ホモセクシャルな部分で描いた作品で取っているのだから、なんだかそういうホモセクシャルな部分否定したくて今度は男女の濃厚なセックスを描いただけなんじゃないのという怪訝もあった。

●そして観た作品は・・・・予想通り・・・正直これは愚作としか思えぬ。評価している向きも多いようだが、辛口どころか辛辣に言い切ってしまってもいい、なんだこのストーリーは? 下らん・・・ペッ、もうムカムカするような造りの映画だ。なんでこんなものが男と女の情愛をエガイテいるというのだ、心の深い部分を表現しているだとか言えるのだ? 欲情を写してるというのなら納得もできるが、そうではない。

ーくだらんー

●セックス描写で話題を引いただけの金の無駄遣いの映画だ。こんなものを評価する感覚がわからん。まあそんなきついことを言っていても、映画は人それぞれ、年齢や経験、さまざまな要素で感想というものは千差万別であって然るべき。しかしだ、そんな感想や批評の殆どが性描写をベースとして語られているのはおかしくないか? おかしいとは思わないのか? ようするに結局は大多数の鑑賞者はエロに引き寄せられてまんまと宣伝の仕掛けに嵌まっているだけなのだ。性交シーンをこの映画から抜いたら他に何が残る。映像美は確かだがそれ以外に何が残る。役者の演技力か、それは認めても、それは映画そのものではない。映画そのものであるはずのストーリーがどうしょうもないではないか。繰り返して言おう、数十億の製作費をつぎ込んだ映像美は確かであるが、ストーリーそのものが愚だ。表現そのものも愚だ。この映画からセックスシーンを除いたら・・・カスカスではないか、と観終えて怒りが胸に込み上げてくる。

愛国者とされる若い衆が自分たちの国を占領している日本に協力しているいわゆる半愛国的な人間を一人殺そうと企む。そししてそこにスパイとして一人の女を送り込む、そしてその女は性交の果てに売国者に気持ちが傾き、最後には助けてしまう。話の流れとしては一般的ではあるが筋は通っている。しかし、この抗日グループは何をやっているのだ、殺そうと思えばもう少し過激なことだって出来る、思い切ったことだって出来る、それなのに仲間の女を敵の胸に忍び込ませ、だらだらと殺す機会を伺っているだけで、全然殺そうという過激さに繋がっていかない。つまりこの映画のなかの抗日グループの描き方が非常に生ぬるいのだ、ありえないのだ、リアリティーがないのだ。こんなまだるっこしいことやってるんだったら他の売国奴を一人でも二人でもやっつけてればいいだろう、おまえら何でたった一人をやっつけようとこんな手間暇かけてだらだらうだうだとやってるんだ? といらつくのだ。 つまり、この映画のストーリーは戦時下で抗日のグループの激しい抵抗やスパイ活動を描いているようでありながら、それが全然嘘っぱちのサラサラなのだ。集まった抗日グループが必死になって占領国である日本に抵抗している様子も描かれていない。たった一人を殺そうと子供じみた作戦を立てて、一人の女を抱き回し、的と散々セックスをさせて心を許させてようやく殺そうとなったらその女の裏切りで全員が捕まり、見事に全員が処刑される・・・アホではないのか、なんなのだこのストーリーは。酷すぎる脚本である。

●映像の美しさで多少なりとも高尚な映画の雰囲気は被っているが、表面の薄皮を剥がせば残っているのは子供のスパイごっこのごときストーリーではないか。この映画を素晴らしいと言っている人の気持ちが知れない。宣伝戦略にまんまとだまされているだけじゃないの?と言ってやりたいものだ。(かなり酷い口調になってしまうが)

●映画の表面に貼り付けられた飾り物だけを見て「素晴らしい、すごい」などと言ってないで、その映画のど真ん中に流れるストーリーだけを剥き出しにしてみればいい、それが映画の本当の部分なのだから。激しい性描写や映像美などという引っ掛け文句、表面装飾を一枚二枚と剥ぎ取った後にこの映画にのこるのは、愚である。愚にも付かないあきれるご都合主義のお話である。そんなものをごてごてに飾り付け2時間半もの

●抗日組織弾圧を職務とする機関のイーだが、金回りが良いことはわかるが、それが非常に重要な存在だという組織内の重さが描かれていない。というかその抗日組織弾圧機関というものが全く描かれていないから、イーがどれだけ悪であり、それがどれだけ愛国者を虐げているのかもまるでみえてこない。

●そして、送り込まれた暗殺の為の工作員、女スパイがこれまたまったくスパイらしくない。なんだかよく分からないが敵の重鎮というヤツを殺すために美人を送り込んだのだが、その両方の立っているところが薄いのだ。なんでそこまでしてイーを殺さなければならないのかという部分がさっぱり描かれていないから、抗日グループのイーを殺そうとする感情、熱気がまるで感じられない。「あの人悪いことしてるっていうから、殺そうよ」程度にしか伝わってこない。

●ましてや、この映画の中では占領国である日本がほぼ99%描かれていない。ほんの少しだけ走る車を制止して尋問する軍人が出てくるが、そのくらいであろう。この映画のストーリーの根本となる「自国を占領している悪しき敵国」が映画のなかで全く出てこない、描かれていない。だから抗日グループのこの若い連中が集まって、なんで抗日の気概を上げているのか、なぜイーを殺そうとしているのかという部分が話の中で盛り上げられていない。原因があって結果が生じる。原因があって、理由があって、行為がなされる・・・それが当たり前すぎる程当たり前なのに、この映画の中では原因がさっぱり描かれておらず、結果に至る中途の話だけでストーリーが組まれているのだ。だから何故こんなことをするんだという理由も浮かんでこないし、共感できる話にもなっていない。つまりこの映画はストーリーとして欠損した状態で2時間38分もの間だらだらと話が続いていくどうしょうもない映画なのだ。

●ある感情や動機が生じた原因、理由を全くといっていいほど描くことなく、生じた感情や動機だけを描いていく。それでは何も話が腹に落ちてこない。揚げ句の果てには激しいセックス描写ばかりが目に付く。そんなもの無くても良かったではないか。ようするにこの映画はセックス描写を描きたかっただけの映画ではないかとさえ言いたくなる。だったらなにも戦時下の上海でなくても、スパイの女でなくても全然いいだろう。男と女の情愛を描きたいのであれば別にこんなまだるっこしいスパイごっこを状況設定として使わずとも、幾らでもそんなものは描ける。そんな情愛はどろどろした性交の果ての男と女の感情の縺れ合いなど幾らでも転がっている。この映画で女の愛に揺さぶられる感情の描き方が凄いなどというのなら、団鬼六でも読むなり観るなりしたほうがいいのではないか? そうい言い捨ててしまいたい気分である。

●日本軍側のことが全く描かれていないというのは、製作サイド、プロデューサーやスタジオの魂胆でもあろう。世界ナンバー2の映画興行国である日本でイチャモンが付いたら大枚を掛けた製作費の回収にミソが付く。日本で悪い評判が沸かないように、占領軍でありこの映画の中では悪であるはずの日本軍の所業は全くといっていいほど描くことをしなかった。そんな拝金主義の映画亡者の臭いもこの映画には漂っている。

●結局暗殺に失敗して最後には無残に殺される若者らはなんだったの? 革命でも起こそうとしていたの? そんな滾るような炎がこの若者達にはどこにも感じられないじゃないの? バカな騒ぎをしてバカな計画をしてセックスばかりして最後にはバカな殺され方をする救いようのないお馬鹿な革命家・・・鼻から息を吹き出してしまうようなこっけいさである。

●演劇団の面々の青春描写ものけぞるような使い古されパターンかされた青春映画のシーンのごときであり、よくまあこんなものを今更捕るなと思ってしまうのだが。。。

●二時間半以上もの長さで監督の自己満足に突き合わされた映画。結局アン・リー監督の異常な性欲表現を満たす場として使われただけの映画ではないのか、まったくつまらない、くだらない・・・・ここまで言いたくなる映画もめったにないしめったにあるまい。愚である。

●オーディションの難関をくぐり抜けヒロインの座を射止め、メジャー・デビュー作にして激しいセックスシーンをたっぷりと晒したタン・ウェイは確かに美形だが・・・・こういうデビューの仕方をした女優って殆ど後が続かないものだ。最初からミソが付いて映画界に入ってきたようなものだからミソの付いた女優を次に使おうという監督もプロデューサーもそうそうには居ない。そしていつの間にかショッポイ役ばかりをやって引退していく。そういうパターンに陥るんではないだろうか。日本でもそういうのはよくあるのだけれど。