「スター・ウォーズ〜伝説は語り継がれる〜」(2007)

『シリーズ誕生30周年の2007年、アメリカで制作されたドキュメンタリー。「スター・ウォーズ」が映画界のみならず、同じ時代を生きた人々にどんな影響を与えたのかを映画監督から大学教授、政治家まで幅広い人々の膨大な証言から浮かびあがらせます。(エミー賞3部門にノミネート)』

第1作が全米公開された1977年からちょうど30年後の2007年5月、全米ヒストリーチャンネルで放送されたのが本作。「スター・ウォーズ」シリーズが映画界にとどまらず、同じ時代を生きた人々にどんな影響を与えたかを膨大な証言によって詳細に再現。証言者の顔ぶれはピーター・ジャクソンキングコング)やJ・J・エイブラムス(M:i:III)など、映画監督から大学教授、政治家まで幅広く、彼らがどうシリーズを見てどんな影響を受けたか、興味深く見ることができる。シリーズの名場面もたっぷりだ。“TV界のアカデミー賞エミー賞ではノンフィクション・スペシャル賞など3部門にノミネートされた

ということだが、この番組の内容は意識誘導、情報操作のドキュメンタリーのようなものだ。

ジョージ・ルーカススター・ウォーズのストーリーを作るときに古今東西の神話、伝説などを読み漁り参考にしたという話は最初の公開当時からあった。このドキュメンタリーを観て、SWのことを余り知らない人や最近のファンならば「へぇ、そうなんだ」と驚く内容かもしれないが、ある程度のSWファンなら「なにを今さらそんなことを」と言いたくなるかのような内容である。

●それよりも引っ掛かるのはスター・ウォーズのことをさも得意げに語る大学教授や政治家などのしっかりとした肩書をもった御仁らが「あれはホメロスのあの挿話をとったのよ」「あれはギリシャ神話のあの英雄をモチーフにしているのよ」「あれはどこそこの神話の概念を再現したものなのよ」と、お節介と言えるほどに解説していることだ。

●ルーカスがどのシーンにどの神話の要素を組み入れたかなんてルーカス本人に聞かなければ分からないだろうし、そんなことを大の大人が「これはこうだ、あそこはあれだ」と偉そうに決定付けて、絵まで重ね合わせて説明している。

●このドキュメンタリー(というかインタビューの継ぎ合わせ。まるでDVDの特典映像みたいなものだ)で神話とスター・ウォーズをいちいち糸で結びつける先生方の説明は、まるで観客のイマジネーションを固定化させる、映画に対する無恥厚顔の余計なおせっかいでだ。観る側が自由に感じ取ればいいことを、型に押し込んでしまうような行為だ。

●多くの映画は昔話や過去の映画や伝説など、いろんなものを参考にしてストーリーやシーンの一部を作っていたりするものだ。そういった部分の解釈は、映画の解説書で「あれはあの物語を参考にしている」と書く程度ならいいが、こんなTV番組で、学者先生や政治家が「あれはあそこだ、これはあれだ」と決定づけるように説明する必要などない。

●しかも、あろうことかこの番組では共和国元老院議員であり、銀河帝国 悪の皇帝パルパティーンヒトラーナチス北朝鮮金正日になぞられ、その映像を重ね合わせて説明しているのだ。最初からこの番組にはなにか考えを一方向に誘導し固定させるような鼻を突くものを感じていたのだが、このシーンを観た時はたと気が付いた。この番組は戦時下で国威高揚や戦意創出、意識誘導、世論誘導に軍隊が使ったプロパガンダ映画に作りが非常に似ていると。

●都合のいい事実と嘘を並べて、大衆の思考を一方向に向け、束ね、固定化する。このドキュメンタリー番組のスター・ウォーズ解説はその作りに近い。

●2007年頃と言えば、史上最低の大統領ブッシュがアフガン戦争の正当化と米軍増派をなんとかしようと画策していた時期だ。そのためにはアメリカ国民の同意も必要だった。反対する意見を封じ、賛成する世論を形成しなければならなかった。ブッシュが戦争の正当化と米軍増派行うには国民の大勢意見の後ろ盾が必要だった。その為にブッシュはマスコミ操作も情報操作もおこない、大衆の思想をアフガン増派賛成に誘導しようとしていた。ブッシュは息のかかったFOX TVと共謀し影響力の大きいニュースチャンネルで意図的に戦争情報を操作編集したニュースを流し意識誘導を行っていた。

●この「スター・ウォーズ 伝説は語り継がれる」を観ていたら、この番組もブッシュ陣営の行った意識操作の一つなのではないかという訝る気持ちがむくむくと沸き上がってきた。それは、このドキュメンタリーの作りが、大衆に向けた情報操作そのものであった軍事映画に極めて近く、まったくもって似ているからだ。

コマーシャリズムでは商品訴求、宣伝に有名スターを利用する。有名スターが喋っていることなら信用できると意識を操作するためだ。2007年当時のブッシュが国内はもとより世界中で確固たる人気があるスター・ウォーズを、戦争拡大と増派を企む自分の作略に利用しようしたということは、邪推だと言われるかもしれないが、充分に考えられることだ。

●独裁者や悪の皇帝を倒さなければ自由は手に出来ないと大衆に呑み込ませ、だからアフガンでアルカイダビン・ラディンをやっつけなければならないんだ、そのためには軍人をもっと送り込まなければならないんだ。その意識を作るため、世論を誘導するための工作の一つとして、ブッシュはスター・ウォーズのストーリーと人気を利用したのではないか? そんな腐臭がこの番組から漂ってきている気がするのだ。

●意図的にある方向に結論をもっていこうとする映像編集というのは、いくら隠そうとしてもばれる。観客はそんなに甘くはないのだ、ちょっとした意図的編集からでも観客は作品の良からぬ臭いとざわつきを感じ取り、作品のありかたに疑問を感じ、作品の正体を見抜く。『YASUKUNI 靖国』もその典型的な例だ。

●もちろん、人それぞれに感じ方、受け取り方の違いはあってしかるべきだが、このドキュメンタリーを観ていて「これは軍事プロパガンダと同じ作りだ、立派な論を並べ立てている裏で観客の意識操作をしようとする意図がある」と感じた。

●この番組製作者は、最初はパルパティーンと帝国軍の映像に、ビン・ラディンアルカイダの映像を重ねようとしていたのではないか? だがそれでは作為があからさま過ぎると、ナチス金正日の映像にしたのではないか?

ブッシュ政権下のアメリカとは、こんな映像番組一つにも、傲慢強欲なブッシュ陣営の意図が練り込まれているのではないかと勘ぐってしまうほど、酷いおぞましい時代だったのだ。大衆は騙され、反対意見は封じられた。ブッシュが非難し、否定し、攻撃した独裁的国家、ナチス北朝鮮、日本の軍国主義時代と同じものがブッシュ政権下のアメリカだったのではないだろうか。この番組はひっとしたらブッシュ政権の、アメリカ国内に張り巡らした悪行の末端の一つなのではないだろうか? かなりの拡大解釈と言われるかもしれないが、そんな気がするのである。