『戦争のはじめかた』(2001)

原題: BUFFALO SOLDIERS
日本公開:2004年12月11日
ベルリンの壁崩壊が間近の1989年 西ドイツ・シュツットガルトの米陸軍基地が舞台。当時の大統領は父ブッシュ。

●『アメリカン・ウェイ』を彷彿させるような映像だなと最初に感じたが『アメリカン・ウェイ』の徹底した諧謔と、この作品のシニカルで嫌らしいブラック・ジョークとは本質的に違うもののようだ。

●戦車内で麻薬でラリっている様子は『アメリカン・ウェイ』のオマージュのようにも見えるが、閉鎖空間の映像となるとアングルも限られるし絵的には似たようなものになってしまうというだけかも。

●軍内部、下級兵士の悪行、横流し、ヘロイン精製、武器強奪、マフィアとの取引など、相当に皮肉をこめて軍隊を描いている。もしこれが現実だったらどうなることやら。描かれていることは多かれ少なかれ実際にもあるのだろうが、ここまで酷かったら軍隊なんてどうにもならないだろうという程の有り様。軍内部でのヘロイン精製なんてブラックジョークにしてもあまりに現実味が無さ過ぎる。

●軍内部の規律や統制の乱れなんてのを皮肉っているにしても、ちょっと度が過ぎる感があり、ブラック・ジョークと言われてもさして笑えるものでもない。話自体も同じようにさして面白くはなく、結局何を描こうとしてたの、何を描きたかったのという部分はほとんど見えてこない。

●特異な題材を取り扱っただけで、ただそれだけに留まり、特異な題材故に多少なりとも注目と興味、関心は引くが、それでお終いといった中身のない映画、面白みのないエンターテイメント、薄笑いしかできないブラックジョークの積み重ね映画で終わっている。

●こういったブラックジョークや皮肉では、もう状況に対して異議をとなえることも、告発することも、そんな力もないのだろう。かってブルトンシュールレアリズム派の人々は諧謔によって世の中を変えると提唱したこともあったが、もう今の時代、ブラックジョークや諧謔では政治も組織も世の中も変えられない、キズ一つ付けることが出来ない。権力や組織が今ある世の中の機能、マスコミ、メディアを使って既に体制を固めてしまったからだ。容易には攻撃されず、傷つけることなどできない強固な鎧をまとってしまったからだ。

●かって、映画にはその大衆性と人気を土台にして、世の中を変えてゆく原動力となる力があった。だが、今ではそれはもうない。逆に体制に利用され、思想や世論を調整する道具にされている。

●『アメリカン・ウェイ』にしてもこの作品にしても、マイケル・ムーアの一連のドキュメンタリーにしても、それは大衆の不満をほんの少し和らげ、息抜きをし、爆発に向かう空気抜きの効果はあるが、それは体制側に有利に働くだけで、怒りを巧妙に丸め込み暴発を抑える役目になってしまっている。

●もう諧謔や皮肉では蚊の一刺しにもならない、何も変えられない。変えるには徹底した現実主義、ドキュメンタリーに近い告発でなければならないのだろう。だがそれは往々にして日の目をみることはない。そういった作品は企画の段階で没になってしまう。

●ギャグ、風刺、皮肉ではもうなにも変わらない。世の中を取り巻く状況、情報をコントロールする力、悪の隠蔽、正義の抹消、そんな力は限りなく大きくなってしまった。

エド・ハリスとスコット・グレンという『ライト・スタッフ』のパイロットが二人出ている。エドは名優に近づいているし、それほど派手ではないがあれこれと出演している作品も多いが、スコット・グレンはライトスタッフ以降あまりいい役に恵まれていない。ライトスタッフで演じていたアラン・シェパードのカッコ良さで役を演じて欲しいいいものだ。

●プールで泳ぐバーマン夫人(エリザベス・マクガヴァン)は最初リヴ・タイラーかと思った。目つきがちょっと変だなと感じて別人と分かったがなんともこの映画ではよく似た顔つきで映っている。

●『戦争のはじめたか』という邦題はこれまた酷い題の付け方だ。