『復活の日』(1980)

●大きな夕日の太陽をバックにしてボロボロの服を着た草刈正雄が杖をつきながらよろよろと歩き、BGMに”it's not too late to start again"という感傷的な歌が流れる。このテレビCMがとても強く、鮮明に記憶に焼き付いている。

●大々的に宣伝され、TVCMも相当に流れていたのだけど、何故かこの映画は観ていなかった。まだ小さい頃だったというのもあるが、当時の角川映画作品はこれでもかっていうほどTVCM、特番、PRなどをメディアで畳みかけていて、最初は面白そうだなって思うのだけれど、余りに繰り返し流されるCMを観続けていると、だんだんと観てもいない映画を観たような気になってしまうようなところがあった。今と違って作品の情報なんてTVCMや雑誌でしか知りえない状況であったわけだが、特に悪い評判を聞いた記憶もないのだから、たぶん繰り返し流されるCMに次第にうんざりしてきて、結局は観に行かなくてもいいやという判断をしていたのかもしれない。

●映画のスケール感は驚くほどである。南極を舞台とした映像は普段ではあまり観ることもないし、印象的。DVDの画像がお世辞にも奇麗とは言えないものなのでこの点が非常に残念。きっと木村大作が撮影したフィルムに収められている映像は息を飲むほど美しいものだったのではないだろうか? きっと保存の悪さなどでフィルムが劣化し、こんなぼやけた映像のDVDにしかならなかったのだろう。きちんとレストアすれば美しい映像を有る程度まで復活させることも出来るはずなのだが・・・そこまで金を掛けてDVD化するつもりも無かったのだろう。そこまで金を掛けてもソフトはたいして売れないだろうという予想もつくし。

●邦画の歴史の中でも五指に入るトンデモ映画ということだったのでどれだけ詰まらない映画化とおもっていたのだが、確かにトンデモ映画だが、初めて観る分にはそこそこ楽しめた。作っている側はシリアスな大作だと思って撮っていたのだろうけれど、子供向けの東映戦隊モノだとか、怪獣もの、宇宙SFものといったテイストがあり、そのつもりで観ているととんでもないストーリーも許せてしまう。

●だけど、よくもまあこれほど無理のある脚本、めちゃくちゃ強引、ご都合主義のストーリー展開の映画を作ったものだ。作っている側も「この話はありえないな」と思ってたんじゃないだろうかってくらい、オイオイと言いたくなる部分は多々有る。そういうところも含めて「へぇ〜よくこんな話、こんな映画を撮ったものだねぇ」と思って観ていればそれなりに楽しめるんじゃないだろうか? 繰り返し観ようとは思わないけれど。

●粗探しをしたらキリがなくなりそうだし、そういうのは他のサイトでも多分沢山かいてあるだろうけど、よくもまあこんなストーリーにしたものだなぁと言う部分といえば、生き残ったたった8人が人類存続の為に複数男性と性行為を行って子孫を作るべきだなんてことを真面目に会議してるシーンだとか、いきなり巨大地震が起きますよって話が100段階位飛ぶことだとか、ワシントンにたった二人で上陸して廃虚を走ってホワイトハウスに向かうだとか、ホワイトハウスの地下シェルターにスイスイスイと入っていっちゃうことだとか、教会でキリストに話しかけるシーンだとか、そしてなによりも、ワシントンから南極まで歩いてたどり着くというラスト! ここまできたらあきれるよりそれをおちゃらけとして受け取って笑っていたほうがよっぽどいいという感じ。LIFE IS WONDERFULなんて言うのも、きっと作った人は「これがテーマなんだ!」って妄想に駆られていたんだろう。

●多分本当はもっともっと美しかったのだろうと思われる映像は木村大作あってのものか? やはり自然を撮らせたらこの人はトップクラスかも。

●南極での撮影、潜水艦の撮影、そういった凄さもあるけれど、各国のシーンだとか、よくやってるなぁと感心する。国会議事堂前での自衛隊車両の撮影だとかも一部合成だろうが、今じゃこんなこと出来ないんじゃないかなと思ってしまう、ほんとよくやったもんだ。

●まあ「アマルフィ」もそうだったけれど、大作感をだそうとすると世界中での撮影ってのがよく使われる。べつにもう世界各国のシーンをつなぎあわせたからって大作だなんてイメージは今の時代ないんだけれど、作る側はそういうことをしたがるのは今も昔も変わりなし。

●たいした役ではないけれど、多岐川裕美はほんとエキゾチックでちょっと野生味のある美人。そして草刈正雄は確かに男前でこれはカッコいい。オリビア・ハッセーも美しい。確かにこのキャスティングは豪華だ。
[:W250]

●数年前に言われていた邦画バブルなんていうのはあっというまに弾けてしまったけれど、あれはDVDが非常に良く売れていたからリクープの目処が立ちやすく、どこもかしこも小さいところまで映画製作に走ったというだけのことだ。大予算で大々的撮影して今では考えられないような邦画を作っていた角川映画全盛の時代こそ本当の邦画バブルだったんじゃないだろうか。角川だけじゃなく、1970年代の大作が沢山出来た時代こそ本当の邦画バブルだったと言えるだろう。この映画は本当にバブリーそのものである。

●映画のテーマ曲であるジャニス・イアンのユー・アー・ラブ。良い曲だ。ジャニス・イアンって当時相当に人気で日本でもかなり有名だったらしいけれど、自分は今回この映画を観るまで全然知らなかった。まだ小さかったから分からなかったのかもしれないが、そんなに日本で人気があったシンガーだったんだ? ってビックリ。いやはや・・・・

●日本ではかなりのヒットになったがアメリカでは全くダメだったということらしいが、この内容では仕方有るまい。日本が作った映画で、ホワイトハウスで大統領がへんてこな細菌のことを話して、これまたへんてこな軍人が核の報復システムを作動させ、日本人がホワイトハウスのシェルターに侵入して・・・そんな映画をアメリカ人がみたら、外国人がバカな映画を作ったもんだと思うだろう。アメリカ人が日本のへんてこな映画を作ったのを観て、日本人がアメリカ人がバカな映画を作ったもんだと思うようなものだ。撮っている側は真面目なのかもしれないが、この映画に出てくるアメリカの政府関係者って、かなりヘンテコで笑ってしまう。

ジョージ・ケネディロバート・ヴォーンなどハリウッド映画で馴染みの顔が出てくるのは却ってなんだか違和感があるか。

●数多の邦画のなかでトンデモ映画とされている昔の大作に共通しているのは、大枚をはたいた豪華予算、豪華な役者、豪華なロケ、海外キャストといったところだろうか?『復活の日』はその典型であろう。もっと酷い映画で村上龍が監督した『だいじょうぶマイ・フレンド』というのがあるがこれもなぜかテーマ曲だけは頭に残っている。これも未見だけど一回はどんなものか観ておきたいかな? 

角川映画というものが出版界から出てきて、日本映画を席捲してしまうほどの勢いを誇った時代、その時代に作られた、それまでの邦画スケールを遙かに越えた(今でもそうかもしれない)『復活の日』は、こんな映画を作っていたバブリーな時代もあったのだと学ぶ上で一見の価値はあるかもしれない。