『蛍川』(1987)

宮本輝芥川賞作品の映画化。もうこれも20年も前の作品だが「蛍川」という題に魅かれた。はかない生の時間を燃やし尽くすかのように仄かな光を発する蛍。その蛍が集まり光の川の如く輝く場所があるという。それだけで日本人の情緒を揺らし、そんな場所を一度でいいから見てみたいと思ってしまう。「蛍川」という題は言葉として心に響くものがある。

●富山の四季の風景の中で少年の成長を描いた作品ということだが、残念ながらこの映像からは富山の自然の美しさが伝わってこない。これは撮影の方法にもよるが、いくら美しき雪景色、桜、草木、山並みを映しても響いてこないものがある。カメラマンと監督が切り取ったフレームが詰まらない、というかその自然をフィルムに映しだそうという熱意が無かったのか。なぜか「美しいな」と感じるような絵がまるでない。

●ストーリーは山も谷もなく、平々凡々に淡々として進む。まるで絵日記でも見ているかの様だ。話に抑揚がなく、盛り上がるところもない、監督や脚本家が敢えてそうしたのか? それにしてもこれでは映画としての面白さがまるでない。

●原作小説の文字をそのままに動く写真に置き換えただけという感じがする。言って見れば原作を調理して映画にするというアプローチ、作業が希薄である。

●ラストの大量の蛍が乱舞し、光の川を作っているシーンは唯一の見どころか。たしかに美しく幻想的だ。だが、そこだけが売り文句では仕方あるまい。

●蛍が光って川のようになっているシーンはアニメ「蟲師」の光脈筋にイメージが近似する。「蟲師」の原作者漆原友紀はこの映画の蛍の川のシーンに蟲師に於ける光脈筋のイメージを繋げたのではないだろうか?

●ストーリーの中心となる二人の中学生、坂詰貴之、沢田玉恵の演技は純朴ではあるけれどちょっと恥ずかしくなるくらいつたない。

●十朱幸代は以前はテレビや映画での露出がかなり多かったのだけれど、ここ最近は滅多に見ない。美人女優としてこのころは名を馳せていたのだけれど、あまり積極的には活動していないのであろうか。

●公開から20年も経た今となっては、もうあまり知る人もいない埋もれた作品であろう。機会あって観ることになったが、映画としては面白みはないと言わざるを得ない。原作小説をよむべきかな?

●大量の蛍が一斉に飛び立ち、光り輝く川のようになっているという「蛍川」。一度でいいからそういう風景を見てみたいとは思うのだけれども。