『許されざる者』(1992)

クリント・イーストウッドの傑作。イイ映画を見たいと思ったときに取り出す一作。

●脚本が実に素晴らしい。クリント・イーストウッドと共同脚本を書いたデヴィッド・ウェッブ・ピープルズという人は他ではそれほど際だった脚本を書いているようではない。(別名で出しているのかもしれないが) この映画の脚本は白眉。「七人の侍」や「隠し砦の三悪人」「用心棒」などの脚本が海外でリメイクされ使われているが、「許されざる者」の脚本、ストーリーを日本の江戸時代、いや現代物に当てはめて映画にしても面白いものが出来そうな気がする。

●構成も巧み。娼婦役の女性達も非常に上手い。

老いぼれて馬にもまともに乗れないような男を演じる部分の演出がまたいい。

ジーン・ハックマンの正義という権力の仮面を被った悪が見事。正義、道徳を振りかざしながらも実は悪だというストーリーは「ミスティック・リバー」やその後のクリント・イーストウッド監督作品に一貫している揺るがぬ思想。アメリカという国、現代の世界にたいする強烈な批判。権力で与えられた正義の役人が正義など行っていない。正義の名を振りかざして堂々と行われる悪が敢然と存在する。

●この映画は何度も繰り返し観ているが、いつの頃から吹き替えでばかり観るようになった。対外の洋画作品は吹き替えでは観ないのだが(言葉の情報量は圧倒的とは分かっていても)この映画の吹き替えは非常にレベルが高い。クリント・イーストウッドだけでなく、脇役、ちょい役含めて全部の日本語のセリフがぴったり役者の演技に融合している。

●山田康夫の声でラストで叫ぶ「あんなことをしたら、今度は皆殺しにするぞ! 」はビリビリと強烈な強さで耳に響いてくる。英語音声で実際のクリント・イーストウッドがしゃべっているものと比べてみたりもしたが、山田康夫のしゃべる日本語の方が、クリント・イーストウッドの声よりもいっそう気持ちが強くにじみ出ている。こういう凄い日本語吹き替えというのは滅多にある物ではない。

●名作!