『スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ』

●日本語の造語であるマカロニ・ウエスタン(イタリア西部劇)を踏襲してスキヤキ・ウエスタン(日本の西部劇)としたわけか・・・・面白い。壇ノ浦の源平の戦いを西部劇での対立としたのか・・・面白い。荒野の用心棒のスタイルをオマージュとして取り入れたのか・・・面白い。クエンティン・タランティーノを役者として登場させたのか・・・面白い。そして出来上がった特異なアイディア満載の映画は・・・・溜息が漏れるほどにつまらない。非常につまらない。最高につまらない。面白くない・・・・。

●冒頭からタランティーノが出てきてスキヤキを食う辺りまで(と、いってもここまでは殆どイントロだ)ははっきりいって目茶苦茶面白い、というか面白くなるだろうなぁとワクワクさせるような映像だ。「この映画、案外期待出来そうだな」と思わせる。だが、源氏だ、平家だの争いとそこに現れた用心棒伊藤英明が出てきた辺りでとたんに「これだめかも」というトーンが滲み出す。ここまで冒頭から20分も経過していない段階だというのに。

●そして、その後に続くストーリーは、なんで? と言いたくなるほどに詰まらない。見ているのが苦痛。どうしてこんなに面白くないんだと思うほどに詰まらない。

●豪華なキャスティングで、製作費もけっこう掛けて作ったんだろうけれど、何もかもが空回り。話しが白々しく、子供向けの紙芝居でも見せられているかのような感じだ。

●企画、脚本の段階で寄り集まった烏合の衆が、思いついたアイディアを出しあって、それを掻い摘んで全部ごっちゃに放り込んだという感じ、それこそスキヤキ状態のストーリーである。スキヤキはそれぞれの具がいい味を出して、料理として調和しているけれど、この映画は煮えてないスキヤキと言っても良いだろう。どの具を食っても美味くないのだ。

●沢山の面白いアイディアと人気俳優を多数キャスティングして映画を作っておきながら、何故にこんなに詰まらないのだろう? 何故に話しにワクワクしてのめりこめないのだろう? なんでここまで詰まらなく、面白くないのだろう?詰まらない映画の検証とでも称してこの映画の分析をすればいろんな詰まらない原因がワサワサでてきそうであるが、そんなことをしているのも時間の無駄であろう。で、詰まらない理由の決定的だと思う所を述べると、前述のようにアイディアだけの寄せ集めになっていてそれが煮詰まって映画になっていないという部分が大。そして、キャスティングのアンバランスが映画大失敗の大きな原因になっている。

●キャスティングは映画を成功させる重要な要素だ、この映画は伊藤英明佐藤浩市伊勢谷友介木村佳乃桃井かおりとその俳優陣だけを見れば、超豪華キャストである。これだけ人気ある俳優を一同に集めているのだからお金も相当に掛かっているだろう。しかし、その俳優の配役でバランスを欠いたためストーリーそのものまで詰まらなくなってしまったのだ。

●メインの登場人物は源氏のドン伊勢谷友介と平家のドンで佐藤浩市、そして主人公は用心棒ガンマン伊藤英明・・・・なのであるが、、伊藤英明が源平の争いの間に登場し、話しを引っ張っていく主役を、伊藤英明は周りを取り囲む役者よりも人物としての個性、魅力度が弱いのだ。演技の上手下手というのもあるが、主人公が登場人物の中で一番にキラリと光る個性を持ち、ストーリーをどんどんと展開させていかなければ映画なんて面白くならない。だが、伊藤英明よりも佐藤浩一や伊勢谷友介の方が画面からビシビシにその個性と魅力を発揮しており、主人公の伊藤英明はそれに比較して色が薄いのだ。ストーリーを追っていると、伊勢谷や佐藤の方がメインキャラじゃないのと思えるようになってしまう。この二人のアクの強さに主人公役である伊藤英明は完璧に塗りつぶされてしまっているのだ。

伊藤英明も単体でやっていればそこそこの役者なのだが、これだけ周りに豪華な顔ぶれが揃っていると、どう見ても影が薄い。役者のもつオーラーやパワーというところで主役が脇役に負けて、飲み込まれているのだ。だから主役が話しを引っ張れない。脇役のエピソードの方が面白く感じるので本筋のストーリーが面白くなくなるのである。

●この映画はキャスティングのバランスをミスった、映画失敗のとても貴重な参考例になるだろう。こうしちゃいけないんだよ、と教えるには最適な教材だろう。

●世界配給まで皮算用して役者全員に英語でセリフを喋らせたりしたが、この詰まらなさでは海外に持っていってもB級ビデオ作品として扱われるのがオチか?

●DVDには日本人の役者が英語で喋っているセリフを、同じ日本人役者が日本語で吹替えたものが収録されている。日本人の役者が自分の話している英語セリフを日本語吹き返するというのに、どんな感じになるかな?と興味がそそられて見てみたのだが、これがまた映画教材になるほど酷いものだった。

●役者本人が自分自身の喋っていた英語セリフを、普通にいつも使っている日本語で吹替えをするのだから当たり前のように、自然な感じになるのだろうと思いきや、英語セリフをしゃべっている唇の動きと日本語吹き替えのセリフがまるでシンクロしていないのである。

●洋画の日本語吹き替えの技術というのは日本はかなりハイレベルなものを持っている。吹替えのセリフも慎重に選ばれ、外人の役者が英語で喋っている口の動きに日本語のセリフが違和感無く同調するように吹替えは作られる。感情の起伏にも日本語セリフをキチンとシンクロさせている。まるでその外人役者が本当に日本語を喋っているのではないかと思えるくらい見事なものもある。しかしだ、この「スキヤキ・ジャンゴ・ウエスタン」の日本語吹き替えは、役者の唇の動きと日本語のセリフが全く同調していないのだ。我々が。言葉を発するときに口を開け閉めする日常の感覚と大きくズレた口の動き方をしているから、その違和感、気味の悪さはちょっとない。なんでこんなにリップシンクしない日本語になっちゃってるんだろう。

●きっと、日本人の役者が無理して英語のセリフで喋っているので、発音や口の動かし方に不自然さが出ているのだ。それを日本語に吹替えようとしたとき、その不自然さがより強調されてしまったのだ。喋っているのは同じ役者なのに、不自然に話す英語と自然に話す日本語が反発しあったのだ。英語ネイティブではない日本人が喋った英語のセリフは、役者達の母国語である日本語に戻ることすらも歪めてしまったのだ。外人俳優の英語セリフを日本語で吹替えたときのあの自然さがこの映画の日本語吹替えにはまるでない。咀嚼されていない異文化の利用は、こんなところにも歪みを作っているのだ。

●海外販売をもくろんで役者全員に英語セリフを喋らせて映画を作ったりしたが、日本人の役者も英語のセリフじゃ、感情表現も思ったように、自分が納得するようには出来なかっただろうに。

木村佳乃はこの映画の中でも、まあ随分と濡れ場、汚れ場をやっているなぁ。顔立ちの整ったキレイな女優だから監督は汚れ役をやらせたくなるのか? それにしても最近の木村佳乃って主役じゃないときは脱いだり犯されたりする役が多いって気がする。もっと普通にイイ役を演じてほしいものだが・・・・。

●大枚はらって、豪華な役者をそろえて、海外番宣もくろんで、アイディアだけは揃えたけど、全部大きく空回りの空振りという一作。まとめ切れてないのはやはり監督の責が大きい。