『ゼラチンシルバーLOVE』

●原案・撮影監督・監督:操上和美・・・自分は知らなかったがアーティストの写真ではかなり有名な人物とのこと。

●操上和美 名前から最初は女性かと思った・・・1936年生まれ 73歳とは思えぬエネルギッシュな顔姿、。

●セリフなど非常に少なく、絵だけで話を運んでいく展開は、ストーリーにさして起伏もないから、詰まらぬカメラマン、詰まらぬカメラワークであると詰まらぬ緊張感のない絵の連続となり、飽き飽きする退屈な映画になるが、流石名うてのカメラマン、どの瞬間の絵も緊張感があり、密度がある。最初から思ったより飽きないなと感心。まあそれでも40分も経過すると時計が気になってきたが。80分程の短い尺の映画だからこそ耐えられたかも。これでだらだらやられたらやはり途中で耐え難くなってきていただろう。

●エロティックというのは宮沢りえが半熟の卵を食べるその唇と舌の動きにのみ当てはまる。これは言ってみればオーラルな性交を想起させるからエロテックなのであり、そのほかの部分はたいしてエロスを感じるものはない。

●「ゼラチンシルバー,love」というのはなかなか洒落たカッコのいいタイトルである。ゼラチンシルバーの意味を知らなかったら、ラストの心に響く部分が薄れていたかも。ゼラチンシルバーとloveが意味する言葉の深みがラストでようやく観客に明らかになるのだから、やはり意味を知らないととラストを観た後の余韻が出てこない。

●ゼラチンシルバー:銀鉛写真・・・対象物の発する光と色を集めて写真という物質に取り込む。永瀬が演じる男は宮沢りえが演じる謎の女の光を自分というゼラチンシルバーに取り込んでいったのだけれど、そのゼラチンシルバーは色と形を現す前に、命を失う。ひょっとしたら謎の女も心という自分のゼラチンシルバーに男の形を写し出し始めていたのかもしれないのだけれど、それも自らの手で封じてしまう。男と女のゼラチンシルバーは愛という光を写し撮ることが出来なかった・・・・。

宮沢りえは流石に歳もあり顔の皺や手の皺なども如実に画面に出ているから美しいかと言われるとちょっと微妙な部分もある。

●女の殺し屋、暗殺者ということであれば余り若い役者では現実味も薄れよう。宮沢りえ位の歳だから許せるとも言える。

●つっこみどころはあれやこれや沢山ある。ブラインドはあの角度とスリットの開き具合では外から見てくださいと言っているようなものではないのか? そんなことを殺し屋がするわけないだろうとか、スーパーで再会するシーンなどもちょっと幼稚くさいとも言える展開なのだが、セリフが少なく説明するようなしゃべりがあまりないからなんとかその幼稚っぽいシーンも観るに耐えられる。まあ、なんだかんだ言ってもこれもファンタジー、お伽話的な作品なのだから、あまり細かいことをつっこむとそれは野暮になる。(いつもそうして許してしまうのも考え物だが)

●ラストでライトを消す瞬間、宮沢りえの目が涙で潤んでいることがほんの一瞬のシーンだが光の具合で分かる。本当にほんの一瞬だ。これは監督が意図してやったことであろうけれど、普通なら頬を伝わってこぼれる涙を映すとか、足下に落ちる涙の跡を映すとかしそうなものだ。ほんの僅かかシーンに潤んだ目を見せる。その絵を光り、角度、役者の目などをコントロールして瞬間切り取るあたり、それもさり気なく。これはなかなかであり、流石のテクニシャンと感服。

井上陽水の音楽が良い。

●永瀬の演技もなかなか。髪を雑に伸ばした顔はどうも吉岡秀隆にそっくりであったが・・・。

●たぶん奇妙な映画、監督の自我だらけのよくあるトンデモ映画かと思って観たのだが、想像以上に良かった佳作。終わった後の余韻がいい。