『黒部の太陽』フジテレビ開局50周年記念ドラマ特別企画

●フジテレビが開局50周年記念と銘打って作ったドラマだけに、これはなかなかの出来であった。キャスティングも豪華。旬の女優、男優、名優と映画でもなかなかここまでは揃えられないだろうという布陣。流石金持ちテレビ局だねぇとある意味驚きよりももう敵いませんという感じである。

●香取真吾の演じる倉松班の親方役がなかなかである。オッハー、孫悟空とは天地がひっくり返すほど異なる役なのだが、荒っぽい土木現場を仕切る若い親方の役を見事に演じている。アイドルとは言えない年齢になってきているせいもあるが、顔つきにも凄みがでている。元々こういうヤクザっぽい素養はあったか? それにしてもこの親方の役は実に見事であった。

●関電社長役の中村敦夫熊谷組専務の津川雅彦、作業所所長の伊武雅刀が並ぶシーンは迫真の演技対決。流石にこれだけの強者役者が画面にそろうと顔つきだけでもびんびんと役者の力を放っている。特命を受けるシーン、料亭でのシーン、タクシーの中でのシーン、んーこの辺りは唸ってしまうほどの演技対決であった。すごいね、やはりこのレベルの役者になると。

●黒部に翻弄され、息子までも黒部で失う沢井甚五郎を演じた國村隼の演技はこれまた別格で際立っていた。この人ももう日本の映画界には欠かせない名優になったなと再認識させられる。やはり演技の質、重さ、ちょっとした仕草、顔つき、言葉遣い・・・全てにおいて唸る巧さである。

志田未来もやはり演技が巧い。だが白血病に犯され、余命残り少ない女の子の役、ストーリーに葛藤を組み込むという点と物語に多少深みを出しているのであるが、敢えて必要だったかな?とも思える。志田は力のある目、生き生きとした表情で魅力的な少女役を演じてはいるが、それが却って重病に犯された病の少女という部分にマイナスに響いてしまっている。病に倒れた体なのに、どうも表情も仕草も元気なのだな。まあテレビドラマだからと大目に見てしまうのだが。

深田恭子が演じる川口文子の役も、敢えて入れなくても良かったのではとも思える。逆に文子の心の葛藤はなんだかまるで描ききれていない。きわめて表面的。この辺の女性に関する部分は上っ面をなめているだけのようで、深堀がされていないというのがなんともどうしょうもない。

●まあ、男主体の物語であるのだから、そっちでグイグイ引っ張ってくれているので5時間にも渡るストーリーなのに殆ど飽きることもなく全編を観ることが出来た。

●ロケにしてもセットにしてもちゃちな邦画レベルをはるかに超える製作費が投入されているのが一目瞭然。凄いなぁ。流石フジテレビが開局50周年の記念と銘打つだけの力の入れようである。今邦画製作に関わっている人から見ればよだれが出そうなほどの物であろう。

●絵はTV的。映画的なスケール感とかどっしりとした絵の重みはない。同じように撮影してもやはりTV屋が撮るとTVの映像になってしまうのだなぁ。これが映画だったらと思わずにはいられないのだが・・・・充分にいい作品ではあるけれど。

白血病の少女が描いていたという絵にまつわるストーリーはあまりにもったいぶりすぎでちょっともう少し素直に持っていってよと言いたくなった。ラストは美しかったので心は洗われたが。

●ちょくちょくストーリー展開に気になる部分もあるが大筋では実に男気を語り、社会性もあり、骨太で力強い作品である。途中まで見ていてなんだかこの作りはNHKドラマ「クライマーズ・ハイ」に類似するものがあるな・・・と思っていたら脚本はやはり同じく大森寿美男であった。この脚本家はこういった骨太の作品をしっかりとまとめる力がある。今回このような大作の脚本に抜擢されたのも「クライマーズ・ハイ」でのしっかりと山と男を描いた力量からではないかと思う。

●自分自身も作品の名前は知っていたが、映画は観た事がなかった。ネットで調べると、過去に作られた映画は製作会社がテレビ放映もビデオグラム化も拒んでいるため普通にはもう観れない状況にあるということだ。なんでかしらないが残念なことである。過去に作られた映画も観てみたいものだ。

黒部峡谷で日本最大のダムを作った話は、このトンネル貫通の話だけではなく、その後の巨大ダム建設に至るまでもっともっと様々な困難があったことだろう。トンネル貫通だけでもこれだけのドラマになるのだから。バックストーリーを掘り起こせば、もっともっと多様で多彩な人間ドラマが何本も出来そうな気がする。

黒部ダム(黒四ダム)には立山黒部アルペンルートを使って学生時代から何度か訪れている。今この作品を観た後であの黒部ダムに立てば、また違った感慨深い思いを抱けるかもしれない。銅像レリーフは・・・見たことがないのだなぁ。通り過ぎただけで。温かくなった頃にまた行ってみたい。以前行ったときはアジア系の観光客が大量に訪れていて、ケーブルバスも登山電車もなにもかもが台湾、韓国、香港、中国などの環境客で埋まっていた。なんだか今では日本人よりもアジア人向けの観光地になっているようであったが・・・落ち着いた季節に、あのダムから山並みを眺めてみたいと思っている。