『アポカリプト』(2006)

●ストーリーは至極単純。込み入ったプロットもなく、わざとらしい伏線をはったりすることもなく、非常にプレーンな話だ。それなのにまるで飽きることなく最後まで映像に見入ってしまう。まるでドキュメンタリーを見ているような感じである。

●殆ど無名の俳優、素人の配役ということなのだが、まるで素人臭さなど感じない。いや、それどころかまるで演技などをしているとは思えない。役者というよりも、まんま現地の人を使ったような配役がここまで映画にリアルさを出すとは驚きである。

●無駄のない肉体で獣のように走り回る姿はまるで人間ではなく野獣の如し。

●こういった南米系の人を役者として選び、ロケ、壮大なセット、そこに集まる人々の様子までも実にリアルに描き出していることにも驚き。

メル・ギブソンはなにかと物議を醸すような作品を作るが、マヤ文明をテーマとして選んだというのも相当な挑戦である。

●狩をし、森の中で原始的な暮らしをし、他の部族に襲われ、捕虜として連れ去られ、神の為に生贄にされ、そこから逃げ、そして追っ手と戦い、再び家族の元に辿り着く。本当にストレートでなんの細工もないようなストーリーなのに、これほどまでに映像に魅了されるとは。

●絵の持つ力、生身の下手な演技をしない人間が放つ命の躍動感、嘘のない力強さ、そういったものがみっしりと詰まって観る者を魅了するのだろうか?

●こんなに噛り付くように映画を見たのも久しぶりという気がする。

●この映画は、脚本、ストーリー、プロット、役者のネームバリュー、予算の大きさなどで映画の興行が変わると考えているハリウッド、いや、全世界の映画マーケティングにアンチテーゼすら投げかけているといっていいだろう。

マヤ文明に対する歴史考証の間違い、白人から見た原住民への目、生贄の儀式の残酷さ、過去の作品の模倣、色々と批判もされている作品であるが、そういったところは別にして、この映画は映画として強力なパワーがある。小手先で観客を引き付けようとするようなチャチなテクニックなどまったく眼中にない。

●恐ろしく映像の力をもった本来あるべき映画の姿をもった映画といえるであろう。

●流石にこれだけすごいと、あれこれ書きたくても言葉を紡ぐのが面倒になる。

●これだけの映画、映像ならば、子細なことは一切構わず、ただ見ろ、そして感じろ、それだけで良いだろうと思えてしまうんだ。

●驚きの一作。