『リンダ リンダ リンダ』

●「ウォーターボーイズ」(2001)、「スウィングガールズ」(2004)と学園ものが二作続き、そこそこのヒット。そしてまたしてもという感じで「リンダ リンダ リンダ」(2005)が・・・最初これは三番煎じを狙ってる商売っ気だらけの映画と思っていた。

●学園祭前に起こったちょっとしたトラブルでバンドの演奏が出来なくなりそうという不安感から、唐突に韓国からの留学生を仲間にしてリンダリンダリンダを演奏しようということになる。この辺りの雰囲気はイイ。冒頭に学園祭の準備をしている教室次々と移動しながらと撮影していく、その前の廊下歩く前田が教室毎にちょっとずつ話をしていく。このシーンはいかにも学園祭の準備をしていたあの頃の雰囲気というものが映しだされている。ここには懐かしさもちょっと感じた。

台風クラブに似た雰囲気もある。あの頃の、あの10代中頃のあの甘酸っぱいような雰囲気。高校時代のぼやっとした空気。なにかやりたいんだけどなんだかそれが分らない、やってはみるけれどそれが本当に自分がやりたいことなのか分らない。そういった不安に満ちた自信のない空気感が高校時代には漂っていた。その雰囲気が良く映しだされ観ていると伝わってくる。

台風クラブでもそうだが、こういった学園物の映画だと評論家も、観客も自分も「あの頃の雰囲気を良く映しだしている」という言葉を使ってしまう。ただ、それは監督の技量によるものではないのではと思っている。いや、監督やカメラマン、脚本家がその雰囲気を再現するのに役立っている力は二割もあれば充分だろう。この位の年齢のまだスレていない役者を集めて、あまりあれこれ言わず、大人の側から演出を付けず、撮影の時も「そのままの今の学生生活でしているようにやってくれ」と言えば、きっとまんまに実際に自分たちが送っている学生生活、その雰囲気を演技の中に浮き出させ、ナチュラルな雰囲気を絵のなかに持ってきてくれる。「あの頃の雰囲気が出ている」というのは観る側の懐かしさ、思い出と、演じている役者の自然体の姿が重なり合ったということで、きっと大人が手を加えるまでもなく、その雰囲気は作りだされているのだ。手を加えれば却って壊れていくものなのだ。監督やカメラマン、脚本家に必要なのは自分たちも同じ年代の頃に持っていたあの雰囲気を、大人の感性でいじらないこと。自分たち自信もあの頃を懐かしみ、あのころを在りのままに撮ろうとすること。そのためには若さの持つ輝きをそのままに写せばいい。自然を写すかのごとく。

●なんだか異様に自信満々でツンケンしている香椎由宇よりも、どうしていいのか分らない不安感を体中から漂わせている前田亜季のほうがいかにもあのころ知っている女子高生のイメージ的ぴったりはまっている。生きのいいのも居たけれど、あの頃の同級生の女子高生って前田亜季みたいな感じの方が圧倒的に多かったなと思う。あるときは元気一杯だけど、普段はいつもこの映画の中の前田亜季のような感じだったなぁって懐かしくも甘酸っぱくも思い出していた。

●この高校は男女共学なのだろうが、女子生徒を中心に映像を撮り、話も進んでいくからなんだか観ていると女子高なのではないかという錯覚を覚える。これなら最初から女子高という設定でやってしまっても良かった。

●学園祭に間に合わせる為に必死になって寝るのも惜しんで「リンダリンダリンダ」を練習しているという設定なのだろうが、4人の女の子が必死に練習しているというイメージが全然無い。苦労して弾けなくて悩んでというシーンもない。他の恋愛や人間関係のストーリーが色々入ってくるので必死に練習しているという感じがまるでしなくなっている。

●監督の山下敦弘はクセのある映画の作り方をする。というか作り方ばかりをする。そのクセは今回も全開。敢えて普通とは違ったカメラワークや演出で奇異な所を狙っているのかもしれないが、それが上手く効果を出せば良し、だだの奇異さに終始しているならば白ける。この映画では後者の気配が強い。

●所々で良いシーンもあるのだが、全体としては散漫。ラストのぺ・ドゥナの歌などは迫力もあるのだが、映画全体としては勢いで撮った感が強く、きっちり考えて作られたという感じがしない。そこが熱のあるいい雰囲気を出したのかもしれないが。

●ヴォーカルを演じた韓国の女優ペ・ドゥナはなかなか強烈な印象だ!是枝監督の次回作の出演が決まった。

松山ケンイチはこんな役ででていたのか。