『パコと魔法の絵本』

中島哲也監督・・・・日本というだけでなく、世界を見ても、この監督の存在は ONE AND ONLY、唯一にして無二だ。 超個性、独自の映像を創り出す物凄い人である。今回の「パコと魔法の絵本」は、スクリーンを見ているだけで圧倒された。ハイ参りました。もう唖然とし、驚き、感嘆し、これは拍手を送るしかないと思った。

●最初ストーリーを聞いたとき「一日しか記憶が持たない少女の話」ということだったので、え、またこれかよ?と思った。過去にも何度か書いているが「メメント」「博士の愛した数式」「ガチボーイ」(たぶん他にもあるだろう)とこの記憶に関する特異なモチーフを使っているが、それはそのまま、ベースストーリーの模倣、ワンパターン化のイメージを定着させてしまっている。「パコと魔法の絵本」でもまたしてもこのモチーフを使うのか、と観る前から抵抗感があったのだが、この映画の中での一日だけの記憶はメインストリームにはなかった。メインストリームにあるのは、パコとそれを見守る奇妙だけれど温かい大人たちの心の動きだった。抵抗感は払拭され、完全に中島監督の極彩美の世界に包まれて、驚きの映画体験をすることが出来た。

●それにしても凄い映像だ。めまぐるしく動くキャラクターも凄い。人物とCGの違和感のない馴染み方も驚き。そして、これまた驚くほど可愛いパコとそれを取り巻く大人たちのストーリーが見事。面白く、爽やかでもありながら、ラストには涙も誘う。ホントにこの映画には参りました。

●興行的にもかなりヒットしているようだ。子供達や親子連れも多く劇場に足を運んでいるようである。言ってみればアニメーションに近いこの色彩感覚と、子供達が好きになりそうなCGキャラクター。そういったものが子供達をこの映画に惹きつけているのかな?だが、映画の内容は子供向けではなく、大人向けである。ジュディオングの”魅せられて”が出てきたり、吉田拓郎の”人間なんて”が出てきたりと、なんだか60年、70年世代の思い入れまで入っちゃってるし。子供達はキャラと絵に引かれてこの映画を観に来ても、ちょっと内容には???してしまうんだろう。まあ監督は子供向けに作ったわけではないのだろうから、それは仕方ないのだろうが。

●余りにも全部のキャラが粒立ちしすぎて、あれこれ言っててはキリがない位の密度である。特筆するなら、やはり阿部サダオ、小池栄子のもう吹っ切れた演技が楽しめた。この映画の出演者って自分達も学園祭りでもやっている感じで楽しく演技してるんじゃないかな?(監督は怒鳴りまくりだそうだが)観ているほうが楽しくなるんだから、きっとそうだろう。

●そして、パコを演じるアヤカ・ウィルソンのなんと可愛らしいことか。こんな純真な目でスクリーンに出てくる子役というのも見たことがない。こんな愛くるしい女の子がいたら、この病院の患者のような変てこ人間達でなくても、もうめろめろで可愛がって、目に入れても痛くないって事になるだろう。パコ役へのアヤカ・ウィルソンの抜擢は物凄く素晴らしいキャスティングだ。

●ちょっと世界観は違うが、中島監督はディズニーワールドに匹敵する映像ファンタジーの世界を創りあげていると思う。

●映画ということで言えば、『さくらん』の蜷川実花監督よりも、映像の色彩感覚、マジックとしては中島監督の方が上を行くと思う。(写真なら蜷川実花の凄さは承知しているが)

●もうこの作品は余りに素晴らしかったのであれこれは言わない。今年の邦画としては「歩いても 歩いても」「おくりびと」が自分の中で一位、二位となっているが「パコと魔法の絵本」はちょっと作品の傾向も違うので、別筋で第一位という事になるな。いや、ほんと凄い。