『ウォンテッド』

●予告編では噂のカーチェイス・シーンをたっぷり披露してくれて「お、なんかこれ楽しめそう」という期待感があった。しかし、内容は・・・トホホなものである。

●出だしのオフィスでの誕生祝い、そしてデブデブの上司の嫌みなシーンなどを見ていると「随分と品の無い作りの映画だな」とこめかみがピクピク動いてしまう。SFだとかアクション物という感じがしない。B級な低俗ギャグムービーのテイストを感じてしまう。話が進むとまさにその通りで、殺しのシーンや、スパルタ教育のシーンなど、どれもこれもスプラッター・ムービーのごとく血糊ベトベト、顔グシャグシャで、その表現やストーリー、演出も非常に俗物的。なんだこれは?という映像である。R-15の指定も仕方なしと納得。

●CGIで作られた派手な映像、アクションシーンは確かに見どころではある。噂のカーチェイス・シーンはなかなかスピード感があり、工夫は凝らされている。列車の脱落シーンも良く作ったなとは思う。だが、そんな派手な映像を見ていても「へえ」という感じしか受けない。「これは凄いな」とは全然思わない。「ふーん、CGアーティストを集めて頑張ってこういう映像作ってるよな」と思うだけである。普通ならスペクタクル・シーンと思える所が、全然スペクタクルに感じない。所詮コンピューター・グラフィックの映像だねとしか見えてこないのである。映像に迫力だとか熱気が全然篭っていないのだ。もう全てがCGIの絵だって分ってしまってるのだが、リアル感が薄い。金さえかければこういう”絵”は出来るでしょうと思ってしまう。役者に肉感がない、映像に生命が宿っていない抜け殻をみているかのようである。

●こんなにCGIが蔓延る前の映画は、沢山お金をかけて、人も沢山使って、大掛かりなセットを組んで、それを実際にフィルムで撮影していた。スクリーンから伝わってくる迫力がとてつもなかった。本当に心臓がドキドキし、手に汗握り、もう実際にそのスペクタクル・シーンの中に自分がいるかのような臨場感と迫力があったのだ。だが、この映画にはそれがまるでない。絵としては凄いのだけれど、生の感覚が全く無い。明らかに”絵”でしょうとしか思えない。だからのめり込めない、感動もしない。ひたすらにマンガチックである。 

●絵だけではなく、ストーリーもマンガチック。まあ練られてはいるんだけれどこれまた「ふーん、そう」と軽く見てしまうストーリー。最後のどんでん返しも「へぇ、そうきたの」で、驚きもしない。

●あれだけのネズミ爆弾が爆発しておいて、主要な登場人物は殆ど怪我もなし、のみならず、紡績工場は殆どそのままの状態で、働いている他の組織のメンバーも殆ど無事。まあ、そいつらを拳銃で殺していくって次の見せ場の為には生きていてもらわなければ困るんだろうが、これでは苦笑が漏れる。

●最初から最後まで、なんだか熱のこもらない映画である。感動もしなければ爽やかさがあるわけでもなし、やたら血ばかりを見せて、品のないストーリーと登場人物で、アクション映画というよりちょっと派手なスプラッター・ムービーという感じである。

●暇つぶしにはなるが、見終ってなんにも残らないスカスカ映画である。流行りの言葉で言えば、映画としての”品格”がまるで低い作品である。