『百万円と苦虫女』

●つまらない。まるで、つまらない。蒼井優の久々の主演作ということで話題性はあり、あちこちの雑誌にも取上げられてはいたが。実に退屈な映画だ。

●カメラが捉える絵がつまらない。ピリッとした緊張感もない。脱力系のゆるい映画だとしても、絵に輝きが無い。フレームに面白さが無い。よくある、どこにでも、だれでもやるような切り取り方ばかり、しかもそれが何度も何度も似たような感じで繰り返される。

●ストーリーは、オイオイと言いたくなるほど類型的、ステレオ的。監督&脚本のタナダユキの人生経験の少なさをそのまま表しているような、何処かで見たり読んだり聞いたりしたような話し、キャラクター、科白ばかりだ。

●「ルームシェアして暮らそう」とバイト先の女友達から持ちかけられたのに、相手は男連れで3人のルームシェアだった。引っ越したら男は女に振られ、ルームシェアは相手の男と二人ですることになる??? これもありえん話しだよなぁ。そうなった瞬間に出ていくなり、話しを持ちだしたバイト先の女友達に怒鳴り込むだろう。バイト先の女友達はどこへいっちゃったんだよ? あざとらしく、とても捨てられてるとは思えないような猫を拾ってきたら、それをあっさり男に捨てられる。元カノの知合いで仕方なく同居することになったとはいえ、いきなりこんな展開ありえんだろうに。「猫をどうしたの?」って鈴子の問いに「お前何考えてんだよ、捨てたよ」って男の科白だが、こんなのもありえん。これじゃDVの亭主だろう。いくらなんでもルームシェア始めたばっかりでこれからなんとか暮らしてかなきゃならない相手に、入居して直ぐこんな口の聞き方できる?もうそういうところが全然現実的じゃない。都合よく作って都合よく当てはめた監督の都合よい人格設定と状況設定。それがありえないから溜息が出る。

●鈴子は猫を捨てられたことに頭に来て、男の部屋のものを全部すててしまうんだが、これだっていきなり空っぽの部屋になってるなんてありえん。金もなかった鈴子なんだから引っ越し屋を頼むわけでもないし、一部屋の荷物を一体どうやってどこに捨てたんだよ?

●それで前科者になっちゃった鈴子に団地の周りの住人が陰口を叩く。嘘だろうに、同じ団地に父親も母親も住んでて、人間関係は存在してるんだから、こういうときはあからさまに前科者呼ばわりするとかじゃなく、知ってて知らぬふりをするとか、歩いてるのに気が付いても気が付かなかった振りして通り過ぎるとか、それがフツーじゃない? ワザとらしく歩いてる側によってこれ見よがしにどうしたのぉ、なんていうのはそれこそ小学生か中学生のいじめレベルだよ。社会生活送るようになって周りとの関係が出来てきたらこんなことできない。

●買い物に行った鈴子を見つけた、元同級生が鈴子を囲んで「前科者、前科者」・・・・なんて言うか?そんなイジメをスーパーの前でするか? 20歳過ぎてそんな稚拙ないじめやいやがらせをするか? 20歳過ぎた女ならもっと陰湿で巧妙な嫌がらせをするだろう。この同級生からのイジメシーンはもう頭に来るくらいどうしょうもない。この辺りで「こんな馬鹿げた映画見なけりゃよかった」と思い始める。もう、なんなんだ、この脚本とこの演出の稚拙さは。全部小学生レベルで登場人物の感情が描かれるのかよとスクリーンに石をぶつけたくなる。

●桃の収穫アルバイトで住み込んだ村で、村興しの桃娘(だっけ?)キャラクターに無理矢理持ち上げられた鈴子が、村人の前で「そんなこと出来ません」と言うと、それまで猫撫で声で桃娘をお願いしていた村人が,一転し「東京から来たやつは利用するだけで、恩返しをしない。いつも自分勝手だ」などと大人とは思えない感情で、鈴子を揶揄し怒鳴りだす。もう、こんなのないでしょう、今。こんな卑屈なことで、小娘にどなりちらすおじいさんおばあさんなんていないでしょう。なんちゅう場面なんだか・・・もう見ていて溜息。あまりに状況を作りましたよって、あてはめましたよって展開。ストーリーにどっちらけてしまう。

●あまりに詰まらなく退屈に過ぎた前半、もう眠くなってしまった。アルバイト先の中島亮平(森山未來)と恋仲に落ちる辺りでようやく少しは話しが動いてくる。やっぱりストーリーは男と女の恋があると生き生きしてくるんだ、動き出すんだと思ったのもつかの間、わけのわからぬ展開に落込んでいき、中島は同じ大学の女の子といい仲になる(ような感じ)。そして鈴子が二人のデート代まで支払う。うわ、嫌な展開、嫌なストーリー。キラキラしそうだと思ったら超ジトッと湿って、馬鹿な男とどうしょうもない女のストーリーになってしまう。こういうのは最低。

●そして最後はどうなるのかと思ったら、なんと中島がやっていたのは鈴子を旅立たせないための作り芝居だったって・・・どひゃぁ・・・ありえない。そんな仕掛け、どんでん返しといえないような返し方は異常でしょう。いくらなんでもそんな愛情表現ありえないよ。ひっくり返しを作ろうとしてストーリーを歪めすぎ。好きな女を引き止めるためってことでも、そんなことありえんよ。

蒼井優も全然魅力的に写されていない。弟の手紙で泣くシーンだけは「上手いね」と思ったが、他はもう何でもないって感じ。

●イジメを受けていた弟のことも全然話しに決着がついていないし、なにがなんなんだか、この映画は??

ハチクロに勝とも劣らぬ、退屈さ、くだらなさ。大体にして百万円というのはキャッチーなキーワードではあるのであろうが、アルバイトのフリーターやっていて、自分でアパートを借りて暮らしていて、今の世の中百万円が貯まるの? ギリギリ切り詰めて何もしないような生活でもしたって、フリーターの少ない給料で百万円貯めるのにどれだけ時間がかかるの? この映画の中じゃ、殆ど季節が一つ動く位の間に百万円貯まっているってことになるようだ。これもありえん。リアルじゃないんだよね、リアルに心情を描いた映画だとか言われていても。

蒼井優が主演だからって話題になったけど、まだ無名の女優がこの役をやってたらどうなっただろう? 素直に超駄作と言われてたんじゃないだろうか?

●もう、あきれ返るほど詰まらない、煮え切らない、ありきたりなシーン、カット、フレーム、科白、演出、演技、で途中で飽き飽きしてくるような映画だった。これは久々に酷い一作。なんだんだろうねぇ、これは。