『トニー滝谷』

●音楽は流石に素晴らしい。絶妙。映画の質を向上させている。なるほど坂本龍一ということか。

イッセー尾形はこの内向的で変わった主人公の役に嵌まっている。

宮沢りえは最近時代劇で見ることが多いが、センスの良い衣装を着た今の時代の宮沢りえはやはり、美しいなと再認識。

宮沢りえ一人二役は少しばかり疑問。別の人を当てたほうがストーリーとしての純愛は際立ったのでは?と思うが。

トニー滝谷と結婚して、妻としての生活を送る宮沢りえの姿も、晴れやかで、輝いていて、ホントに美しく、はっとするような美貌の女性。

トニー滝谷の出した求人広告に応募して、彼の家に面接に来る宮沢りえは、少しばかり暗く、影があり、輝きは見えない。

●同じ人物がこの対局な二人を演じる、その対局さをかっちりとイメージとして浮かべる。感じさせる。この二人の違いぶりを演じるということに、
「やっぱり女は服や髪型で別人のように変わるなぁ」などと思った。宮沢りえの演技力、監督の演出、スタイリストの手腕もあるだろう、だが、二人の宮沢りえの顔は同じなのに醸し出す雰囲気がまるで違う・・・・巧いねぇ。

●1時間ちょっとの短い映画。非常に詩情的な撮影の仕方。

●死んでしまったトニーの妻と、求人広告に応募してアルバイトに来る女性を同じ宮沢りえで演じさせるのは、ちょとどうかと思った。これもファンタジーではあるのだが、もしアルバイトに来る女性を別の女優が演じていたら・・・トニーの哀しさだとか、トニーの思いに答えられないとアルバイトを断る女性の気持ちはもう少し浮き彫りになり、強く心に響いたのではないだろうか? 同じ宮沢りえが演じているから、仕掛けとしては面白いが、ギャグになってしまった感もある。

●奇妙でもあり、多分に実験的要素の多い作品ではあるが、観ていて損はない面白さ。新しい服を買わないと気が済まないという正確の女性というのはいかにも村上春樹だという色が出まくりであるが。

●こういう映画は一般受けはしないし、大きな劇場で掛かるわけでも無し、地方で上映されることも少ない。かえってTVの方が多くの人に伝わるんじゃないかなぁと思ってしまう。

●よくこんな映画を作ることができたなぁと思うほど、特殊で面白い味のある作品である。