『台風クラブ』

●近くにあるちょっと個性的なレンタル店を久し振りに覗いてみたら、今村昌平根岸吉太郎相米慎二監督の古い作品をコーナー展開していた。小規模レンタル店でこういう事をする店って最近では珍しい。オーナーか店長が結構の映画好き、かっての邦画ファンなのであろう。

●タイトルは記憶しているが、未見の作品が多い。小説と同じだ、映画も沢山作られている、話題作でもきっかけが無く見逃しているものも山程ある。最近ではそれを追いかけることもなくなり、観れなかったものはまあそういう流れだったのだなと思って余り考えないようにしている。観ようと思ったときが劇場であれ、ソフトであれ一番良いときなのであろう。

●「台風クラブ」のパッケージを手にしてみる。「翔んだカップル」や「セーラー服と機関銃」で名を馳せた相米慎二監督の異色作。(監督の作風からすれば標準か?)

●劇場公開は1985年8月、偶然であろうが、あの日航機事故の年。これも何かの繋がりなのだろう。

●20年以上前の公開当時は結構話題になっていたと思う、工藤夕貴が主演という話題だったかもしれないが。

●青春映画の傑作、思春期の持つ言知れぬ不安感、それを台風の接近によって煽られていく不安感と同時進行で重ね合わせ映像化した・・・まあ、そういう作品説明があちこちにあるが・・・んー????

●台風が迫ってくるときのあの期待と不安の混じった高揚感というものは確かにある。言ってみれば巨大な力が近づいてくる怖さがあるのだが、それが自分の周りにどんな影響を及ぼすのか、どんな破壊を及ぼすのか、それを見てみたいという期待感だったかもしれない。台風が過ぎ去ったあとの、増水して木々がなぎ倒された川を見に行ったり、倒れた看板や、壊れた屋根、そういった日常では見ることの出来ない、自分では為すことの出来ない強力なパワーを見てみたいと思っていた。大人になってもその気持ちはまだ残っている。そういった台風という力への期待と不安を思春期の不安に重ね合わせた着眼は凄いと言える。

●だが、映画自体は、正直つまらなかった。ロングで撮った尋常ではない長回し。昨今の映画に慣れすぎてしまった部分もあるのだろうが、この長回しは非常に退屈な手法だ。映画的な撮影手法や演出という点ではロングでばかり撮られていると、観ている側も作品からの距離を感じてしまう。つまりストーリーにのめり込めない、ずっと遠くの席から舞台を眺めているような感覚だ。

●20年以上前のあの頃に見ていたら、違う気持ちをもっていたかもしれないが。今観る「台風クラブ」は古さを如実に感じさせる作品であった。古い映画でも、今にして全くその古さを感じさせない映画もある。今みても新しささえ感じるものもある。だが「台風クラブ」には古めかしさしか感じなかった。

●「リリイ・シュシュのすべて」と同じく、この作品も中学生、14歳位の心の葛藤を描こうとしている。何故中学生の世代に映画の監督は何かを感じるのだろう? 小学生ではまだ子供過ぎる、高校生では大夫大人よりの考えをするようになる。中学生はその中間で、最も不安定な子供でも大人でもない特異な生き物だということなのだろうか?

●自分の中学時代にこういった不安や心の悩みが無かったから「リリイ・シュシュのすべて」にしても「台風クラブ」にしても、なにか自分はストーリーを肌身に感じられない部分がある。ただ、思い起こせば自殺をした同級生も居た、おかしな事をした奴もいた・・・・でも映画の中のような世界は・・なかった。

●思春期の精神的な不安、不安定さ・・・・それを表現するのは難しいだろうが、この映画がそれを為しているとも思えない。ひしと感じられない。伝わってこない。それは役を演じる子供らのあまりにベタな演技、それをさせた脚本、科白、演出、そういうもののせいだろう。

●特に、所々にある踊りのシーンはいかにもやらされてる感があり、非常に引いてしまう。中学生といえどもこんなことはするまい。

●まあなんだかんだといちゃもんは付けられるが、台風にからめて中学生の言知れぬ、訳の分らぬ不安感を表現しようとした着眼点は特筆するものなのだが、それが映画の中で形になっていない。それこそこの映画自体が訳の分らぬ、妙に不安定なものになっている。ひょっとしたら監督の意図はそこにあったのか?などと穿った見方をする気はないが、言われているような、思春期の不安だとか、悩み、葛藤というものがこの映画から伝わってくるかと言えば、それは薄い。余りに古びた演出、撮影の手法が気怠い部分もある。

●個々にあの登場人物がどうだ、あのシーンがどうだと上げると意味不明、ベタでどうしょうもないシーンばかりが連なっている。

●最後の最後に全員が下着姿になって台風の中で踊るシーンは、何か祭のようなものに感じる。

●映画を見ていて実に詰まらなかったし、退屈であったし、なんなんだろうなぁこれはと思うことが屡々であった。だが、少し時間が経ってこんな感想を書きながらこの映画を思いだしていると、一つ一つのシーンはどうしょうもないもので、それの集まりのような映画であったが、ぐるっと映画全体として思いだしてみると・・・ああ、確かになにかあの不安感のようなものが最後に残っているなと気が付く。

●そういった意味で、なんとなく監督が伝えたかったものがジワッと広がりだしているのは分るのだが、映画そのものとしての作り方、伝え方、そういったものが残念ながらあまりになっていないから、映画として良いとは言えないのだな。

●スカッとしないのだな、この作品は・・・・。