『つぐない』

●前宣伝的には、女性の嫉妬、身分の違う恋、激しい性、引き離される思い・・・・・等々、いかにも女性、特にOLから中高年層をターゲットとして動員を伸ばそうという考えがもうあからさまであった。この手の展開の映画は日本ではやはり有楽町、シャンテ辺りで特に客を呼ぶ。日中は暇とお金を持て余す叔母様達、夕方は勤め帰りのOL、休日は20代から30代の女友達同志・・・なんて感じで観客層を読みやすい、というかそれがもうパターン化している。(邦画の「失楽園」なんてのもそのパターンだった)

●情熱的なベッドシーン、淫らのちょっと手前のセックスで、だけど愛は激しく、そして純粋・・・そういうものを見てドキドキし、自分もそんな思いをしたい・・・そういった女性の思いの琴線に引っかけるような作品の作りは、もう定番化している。だから監督、脚本家、プロデューサー、宣伝の魂胆があからさまに透けて見える・・・・そういうところが作品とは別次元でチラチラしていて、こういう映画は斜に構えて見てしまうのだ。

●セシーリアとロビーが恋に落ちる件が余りに短絡的。そういう気持ちを持っているのだろうというのは話しの筋であらかじめ分ってはいるが、恋してると分かり、行きなり図書館でセックスという流れでは、その前の気持ちの揺らぎや葛藤がほとんど何にも描かれていない。

図書館でのシーン辺りで「おやおや、これはかなり官能的、エロチックな内容に展開するかと思ったら、これまたあっさり・・・・これは男性女性共に期待外れだったのでは?(笑)

●妹のブライオニーが嘘をつく件も短絡的過ぎ。そこに至る少女の気持ちの揺れは・・・描いていない。ブライオニー役のシアーシャ・ローナンの演技はかなり上等と思ったのだけど。いかにもこういうタイプの少女というのがいるなぁと見事に演じていたのだけれど。

●ストーリーが進む中での現在と過去の行き来が曖昧すぎ。フラッシュバックが現在と過去でキチンと区別されていないから、しっかり見ていないとわけが分らなくなるかも? これは編集方法と撮影方法の失敗。特に編集側の時間の区切りかたが明確ではないから、見ていてもやもやあいまいな映画になってしまっている。

●友達の少女が襲われる件でロビーを犯人と証言するブライオニーだが、後に大人になって実は別の人物だと気が付くその展開が、これまたオイオイ、そんなに簡単にキーポイントを変えるなよ、そんなに簡単に顔をくっきり思いだすなよと言いたくなる。少女の嫉妬心が犯人の顔を暗やみに隠していたのだ・・・などと都合の良い理想的な優し過ぎる解釈をするつもりはまるで起きない。ほんとうにこれはオイオイ、勘弁しろよというくらいご都合主義の展開だ。

●看護婦になって自分の罪を贖いたいと告白するのも、そこに至るブラオニーに苦悩が全くといっていいほど描かれていない。「やっぱり私、間違っていた、だから謝りに来たの」なんか只それだけである。

●全体に個々のキャラクターの気持ちが深堀されていないという感じだ。余りに短絡的、あまりにステレオ的に話しを進めている。

●そして最後は行きなり老いたブライオニーが、小説で贖罪をする告白。そして、その告白した小説は事実ではない、姉とロビー再び巡り合うことなく死んでしまった。だから幸せになったという二人が求めていたことを小説の中で描いた、それがせめてもの贖いなのだ・・・・・って、しらけるほど呆れる。それが罪の贖いなのか? しかも私はあと少しで死にますからって・・・・・はぁぁ、なんてご都合主義な話しなんだろう。

キーラ・ナイトレイは確かに美しい。だが、それだけか。

アカデミー賞7部門ノミネート(主要部門の受賞はなく、作曲賞のみの受賞)アカデミー賞のノミネートだけならロビー活動でなんとかなる世界でもある。ゴールデン・グローブ賞ではドラマ部門の作品賞、作曲賞を受賞して、巷の評論家の評価もずいぶん高かったようだが、それもPRの一部だったか? この作品、原作小説を端折りに端折って、エピソードだけを掻い摘んだような内容ではないだろうか? 登場人物の感情の起伏やそこに至る葛藤、悩みが全然深堀されていない。エピソードだけを繋いでいる。ご冗談でしょ、まったく。

●酷い映画とは思わないが、まだ若い監督が物語の深さを知ることもなく、それを映像化することも出来ず、話しの筋をなぞっただけの作品というべきであろう。

●巷の評価の高さに驚くと同時に呆れる。

●「贖罪」という言葉から直ぐに頭に浮かぶのは菊池寛の「恩讐の彼方に」であった。あれほど自分を痛めつけ自分の人生を投打った罪の贖いこそが、贖罪という言葉に対応するとおもうが、この映画のブライオニーはどう悩み、どう贖罪したのか? 小説で告白したのが贖罪なのか? 簡単すぎるしそこに苦しみはないでしょう。映画のなかで贖罪をするブライオニーの苦しみや葛藤がまあ殆ど描かれていない。見ているものが狂おしくなるようなブライオニーの姿はどこにもない・・・・それがこの映画の最たる欠点だ。

●贖罪にはAtonementとRedemptionがあるがこの二つの言葉の違いってどこだろう? ボブ・マーリーの名曲にRedemption Songというのがあるが、AtonementよりもRedemptionの方がより強く、激しいものという感じがする。この映画はRedemptionでは明らかにないなと思う。

☆映画批評 by Lacroix