『切腹』(1962)  

●監督小林正樹 ・・・その後「東京裁判」を監督している。やはり言うなれば”社会派”となるのであろう。

●脚本 橋本忍 ・・・相変わらずスキのないホン(脚本)。きっちりと組み上げられ、理が通らぬところのないストーリー展開。重厚さということでは「日本の一番長い日」「八甲田山」には敵わぬが、この作品の脚本は完成度が非常に高い、本、物語として極めて緻密で計算されているといえるか。

橋本忍の脚本が作り上げた、語りが殆どといえる映画である。だがその語りを行う仲代達矢の演技は流石にすごい。そして語りを回想の映像が補完するという形式の映画。

三国連太郎はこういう悪役というか、権力側の悪に実に良く嵌まっている。

●ある屋敷での切腹にまつわる映画であるから、話しのスケールとしては当然であるが、とても小さい。舞台劇のようなものである。時代劇ものでもこれは社会風刺、権力批判、人間社会の批判、そういうものであろうから、そこが『七人の侍』やら『隠し砦の三悪人』のような痛快な活劇とはちがう。見ていて考えさせられる、少々重い作品である。

橋本忍も黒澤組を離れ自分で脚本を書き、監督などもしたころからどうも体制批判、社会風刺的なものが主軸となっていったような気がする。社会風刺はそれまでの時代劇などにも折り込まれていたが、そう言った部分がずいぶん表に出てきた。橋本忍もやはり”社会派”と言うことになるか?

●立ちあいのシーンで、両手を大きく広げたり、何かのヒーロー物の用に手前で手を十字に組むというのは、なんかちょっと違和感があるな。こういうスタイルって剣術にあるのかね? 演出でやったとしたら、これはせっかくの場面から緊張感を少し削いでしまっている感じだ。

●今の日本社会に置き換えても全く通じるような内容。それが45年前の映画であり、さらに作品は江戸時代の映画。つまり井原西鶴の時代(いや、もっと前)から、現在に至るまで世の中は同じことの繰り返し、庶民はいつも苦しく、庶民でない武士という身であっても、仕える家(会社)がなくなってしまえば浪人(職無し)で苦悩は同じなのだということ・・・・・ワーキングプア格差社会など問題になっている現在だが、過去から同じことが繰り返されてきているということなのであろうなぁ。

北大路欣也はこの作品を学生時代に見て、その映画としての素晴らしさに打たれ、役者になる道を心に決めたと何かにかいてあったな。「八甲田山」の映画資料だっただろうか??

●実は何箇所か一度見ただけでは「ん、このシーンはなんでかな?ちょっと分らないな」と重う部分もあったが、映画の脚本、演出、展開のお手本、教科書と言うべき作品であろうか?

●自分としては橋本忍脚本の作品としては、やはり「八甲田山」や「日本の一番長い日」の方が好みである。

●ちょっと今の日本社会とか現実と重なる部分があり、お家が取り崩しになり、仕える場所、働き口も見つからず、ほそぼそと傘を作ったり、扇子そ作ったりして、なんとかして生きている武士の姿。妻と子を持ちながらも、金もなく、妻は窶れて病に倒れ、子が熱を出しても医者に見せる金もない。そういった部分は見ていて暗く重く哀しい。胸が詰まる。・・・・・作品としてではなく、そういった映画はちょっと嫌なのである。